枳殻垣からたちがき)” の例文
旧字:枳殼垣
誰かこれを持っていたことがある、——僕はそんなことを思い出しながら、いつか書斎でも何でもない、枳殻垣からたちがきに沿った道を歩いていた。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此家ここの隣屋敷の、時は五月の初め、朝な/\学堂へ通ふ自分に、目も覚むる浅緑の此上こよなく嬉しかつた枳殻垣からたちがきも、いづれ主人あるじは風流をせぬ醜男ぶをとこ
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
十六七ぐらいに見える異様な洋服の少年が一人、柏木かしわぎの私のうち門口かどぐちに在る枳殻垣からたちがきそばに立っていたが、私が門口を這入はいろうとすると、帽子をいで丁寧にお辞儀をした。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お六の金をさらった雪之助は自分の家へ持込むのが不用心と思ったので一とまず枳殻垣からたちがき越しに、財布を隣の寺の境内に投げ込み、翌る日の朝行って始末をし、金は灯籠に
が、いくら歩いて行っても、枳殻垣からたちがきはやはり僕の行手ゆくてに長ながとつづいているばかりだった。
死後 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
平次はここに腰をえて調べるのかと思うと、勝手口の表戸の締りだけ見て、至って簡単にきりあげ、最後に路地の突き当りの枳殻垣からたちがき越しに、寺の境内の様子を眺めました。
人の入られぬ様に厚い枳殻垣からたちがきを繞らして、本丸の跡には、希臘ギリシヤか何処かの昔の城を真似た大理石の家を建てて、そして、自分は雪より白い髪をドツサリと肩に垂らして、露西亜ロシヤの百姓の様な服を着て
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
岩吉は枳殻垣からたちがきと建物の間を狭く抜けて、お六婆アの家の裏口へ廻って仰天しました。
竹林の外の枳殻垣からたちがきは、見事に繁って猫の子ももぐれそうにはありません。