果無はかな)” の例文
北海道へ帰って、終戦直前の切迫した雰囲気の中で、今から考えてみれば果無はかない努力を続けているうちに、鎌倉での話などはつい忘れてしまった。
小さい機縁 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その哀しき風景のかげにかくれた果無はかない人生とが、いかにかの女の孤獨なたましひを泪ぐましめたか?‥‥それにかの女のこたへたのがこの作である。
馬鹿くさく果無はかなく思われ、『やがて死ぬるいのち。』という言葉だけがありがたく、その日もすところなく迎えてそうして送っていただけなのである。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は果無はかなげな一羽の鶴の様子をて居るうちに途中の汽車で別れた麻川氏が、しきりにおもわれるのであった。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
村一番の孝行者で、親にろくろく飯を喰べさせることができないのを果無はかなんで首をくくった者もございます
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
恋慕の情を覚えそめていた——と云うだけの話だから、その少女の方ではどんな風に感じていたのかも判らない。甚だもの果無はかない恋愛である。井深君自身もそう思った。
少女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
その後病気がちな日を送られたこともあつたが、昭和十一年正月遽かに果無はかなくなられた。私達にはもつと活きてゐて頂きたい方であつた。愛蔵の品々はよき主人を失つて了つたのである。
赤絵鉢 (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
(おやおや、これはひどい——)と井深君は何だか急に果無はかないものを見たような気がした。
(新字新仮名) / 渡辺温(著)