果報者かほうもの)” の例文
「そうでございますとも、全く果報者かほうものでございますよ。ただ慾を云うとあの坊さんの御経があまり軽少だったようでございますね」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また奥州おうしゅうより出て来たあの田舎武士いなかぶしが、御大将おんたいしょうの眼前で晴れの武術を示すなど分に過ぎたる果報者かほうものだとうらやんだものもあったろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「——長門。そちは果報者かほうものじゃ。信長がこの世の名残と舞う舞を、そちのみが見得るぞ。それにて見物候え」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ恢復かいふくを待つばかりの病人ははた目には気楽そうに見えるのであろう。渡る世間に鬼はいないと云うが、順吉はいま自分がひどく果報者かほうもののような気がしている。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
なにか道場によろこびでもあって、この紅ふでの包みを拾おうものなら、天下一の果報者かほうものというわけ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
仁太のその間髪かんはつをいれぬことばは、あまりにも非常識ひじょうしきだったために、係官に正当に聞こえなかったとしたら、思ったことをそのとおりいった仁太はよほどの果報者かほうものだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
「嬉しうございます。あなたの様な美しい方に、あの御立派な奥様をさし置いて、それほどに思って頂くとは、私はまあ、何という果報者かほうものでしょう。嬉しうございますわ」
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
親にも生まれまさった子を持って、彼はあっぱれの果報者かほうものじゃ
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その書生ッぽは果報者かほうものですよ。
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
『急に御金策ができたとは、何としてもめでたい。さだめしあの御内方の優しい御内助であろうなあ。……いや、平田殿は果報者かほうものじゃよ、この中では、いちばんよい女房を持っておる』
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)