松樹山しょうじゅざん)” の例文
遼東りょうとう大野たいやを吹きめぐって、黒い日を海に吹き落そうとする野分のわきの中に、松樹山しょうじゅざんの突撃は予定のごとく行われた。時は午後一時である。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第×師団第×聯隊の白襷隊しろだすきたいは、松樹山しょうじゅざん補備砲台ほびほうだいを奪取するために、九十三高地くじゅうさんこうち北麓ほくろくを出発した。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
浩さんは松樹山しょうじゅざん塹壕ざんごうからまだあがって来ないがその紀念の遺髪ははるかの海を渡って駒込の寂光院じゃっこういんに埋葬された。ここへ行って御参りをしてきようと西片町にしかたまち吾家わがやを出る。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのの八時何分か過ぎ、手擲弾しゅてきだんあたった江木上等兵は、全身黒焦くろこげになったまま、松樹山しょうじゅざんの山腹に倒れていた。そこへ白襷しろだすきの兵が一人、何か切れ切れに叫びながら、鉄条網てつじょうもうの中を走って来た。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこには泥をり固めた、支那人の民家が七八軒、ひっそりとあかつきを迎えている、——その家々の屋根の上には、石油色にひだをなぞった、寒い茶褐色の松樹山しょうじゅざんが、目の前に迫って見えるのだった。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)