東屋あづまや)” の例文
觀月亭は、この社頭に立つ東屋あづまや風の一小亭である。宮司に導かれて私達は松風の音の聞えて來るやうなところに腰掛けた。
山陰土産 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
と云いながら、しまいには伸び上るような風をして御簾の方へ秋波しゅうはを送った。それから誰かゞ「東屋あづまや」の文句を謡ったり「我家わいへん」の文句を謡ったりした。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
瀬戸橋畔東屋あづまや酒楼にて飲す。(中略。)楼上風涼如水。微雨たま/\来り、風光とんに変り、水墨の画のごとし。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
僕は急に不快になり、僕の部屋へ引返した。すると僕の部屋の中に腹巻が一つぬいであつた。僕は驚いて帯をといて見たら、やはり僕の腹巻だつた。(以上東屋あづまやにゐるうち)
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うつして織れる錦の水の池に沿うて、やゝ東屋あづまやちかづきぬ、見れば誰やらん、我より先きに人の在り、聞ゆる足音に此方こなたを振り向きつ、思ひも掛けず、ソは山木の令嬢梅子なり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
さしとむるむぐらやしげき東屋あづまやのあまりほどふる雨そそぎかな
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
僕は鵠沼くげぬま東屋あづまやの二階にぢつと仰向あふむけに寝ころんでゐた。その又僕の枕もとにはつま伯母をばとが差向ひに庭の向うの海を見てゐた。僕は目をつぶつたまま、「今に雨がふるぞ」と言つた。
鵠沼雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)