ひしゃく)” の例文
くわの先にくずされた蟻群ぎぐんの一匹のごとく蠢めいている。ひしゃくの水をくらった蜘蛛くもの子のごとく蠢めいている。いかなる人間もこうなると駄目だ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
祈がすむと起ちあがって、傍にあった水桶からひしゃくを取り、その水を一口飲んで人形に吹きかけた。人形は人の形をしたのと牛の形をしたのとであった。
蕎麦餅 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこへ他の夜叉が湯気の立っている湯を盛った大きなひしゃくを持ってきた。譔はあの湯をどうするだろうと思って見ていた。夜叉は男の傍へ往って裂かれた腹の上へ杓を持って往き、それを傷口へ注いだ。
令狐生冥夢録 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)