朱骨しゅぼね)” の例文
それがややしばらく続いたのち、和尚は朱骨しゅぼね中啓ちゅうけいを挙げて、女の言葉をさえぎりながら、まずこの子を捨てた訳を話して聞かすように促しました。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
真夜中に目を覚まして、もう女はいないだろうと、布団の襟から顔を出して見ると、絹張の朱骨しゅぼね丸行燈まるあんどんの影に、ションボリとして一人の娘がすわっていた。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
色を変えてボウとしている二官の前に、いつか伝八の姿は去って、入れかわる夕闇の畳目たたみめに、ゆらゆらと明りを揺らせて歩いてくる、朱骨しゅぼね行燈あんどんとお蝶のすそ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
銀座通に柳の苗木が植えつけられ、両側の歩道に朱骨しゅぼね雪洞ぼんぼりが造り花の間に連ねともされ、銀座の町がさながら田舎芝居のなかちょうの場と云うような光景を呈し出したのは、次の年の四月ごろであった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おぼえのある肌のにおい、髪の香い、それに、はっと眼をさましてみると、いつか、朱骨しゅぼねの丸行燈に明るい灯がともッて、向うにある鏡台の鏡の中に、湯上がりの肌を押しぬいで
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外の板の間は氷のようだが、障子の内は、炬燵こたつの火と酒のにおいに、仄明ほのあかるい朱骨しゅぼね丸行燈まるあんどんの灯が照って、そこにいるお稲の身のうごきにも春の晩のようなぬるい空気が部屋にうごく。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四畳半の片隅に、朱骨しゅぼね行燈あんどんが夢のように燈っていた。酒、さかなをとって、伏原は飲み初めた。そして、墨江にも杯をすすめたが、墨江は、下に置いただけで、身をかたくして坐っていた。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)