月光つきあかり)” の例文
此処はただ草のみ生ひて、樹はまれなれば月光つきあかりに、路の便たよりもいとやすかり。かかる処に路傍みちのほとりくさむらより、つと走り出でて、鷲郎が前を横切るものあり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
乞食は身をかがめて、折から雲間をもれた月光つきあかりにすかして見ると、かの馬子は両手を十字架のようにひろげて、眼を塞いで、口から血を吐いていた。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
何かしらんと、月光つきあかりを透して行手ゆくての方を見詰めると、何も見えない、多分犬か狐のるいだろう、見たらこの棒でくらわしてやろうと、注意をしながら、四五歩前に出ると、またガサガサ
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
わずかに残る月光つきあかりかして、左官の彦兵衛は仰天しました。
母親は月光つきあかりに源の顔を透して視て
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
思ひも懸けず後より、「やよ黄金丸しばらく待ちね。それがしいささか思ふ由あり。這奴しゃつが命は今霎時しばし、助け得させよ」ト、声かけつつ、徐々しずしず立出たちいずるものあり。二匹は驚き何者ぞと、月光つきあかりすかし見れば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)