昵懇なじみ)” の例文
昵懇なじみになると面倒だからといつて同じ女を滅多に二度とばないのを自慢にしてゐる位だから京都に飽いたといふのに無理も無いが
彼は今日こんにちまで、俗にいう下町生活に昵懇なじみも趣味もち得ない男であった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本屋はその飜訳をかねて昵懇なじみのある物堅い牧師さんに頼んだ。牧師さんはそんな風な書物を読むのは多分初めてであるらしかつた。
昵懇なじみ芸者のなかには、たまには竹風の書いた長襦袢を、呉服屋の書出しなどと一緒に叮嚀にしまひ込んでるのもあると聞いてゐる。
薄暗い書庫のなかには、色々な書物ほんがさつと一度に猫のやうな金色な眼を光らせて、この昵懇なじみの薄いお客を見つめた。
そのへやは上田敏氏や、平田禿木とくぼく氏や、与謝野晶子女史やが泊りつけのもので、私にはとりわけ昵懇なじみが深かつた。
一人は徳川の四天王、一人は江戸の国学者、一人は幕末の剣術使ひで、新村氏とはみんな深い昵懇なじみであつたが、不都合な事には、誰一人年賀状をよこしてゐなかつた。
句読点といへば、ある時近松門左衛門のとこに、かねて昵懇なじみ珠数じゆず屋が訪ねて来た。その折門左もんざは鼻先に眼鏡をかけて、自作の浄瑠璃にせつせと句読点を打つてゐた。
それは外でもない、新画流行はやりの今日この頃、かねて顔昵懇なじみの画家達を拝み倒して、資本もとで要らずのをしこたま駆り集め、その即売会を開いて、たんまり懐中ふところを膨らまさうといふのだ。
彼はかういつて、最後の一瞥いちべつを長い間の昵懇なじみだつた大地の上に投げた。
春の賦 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)