旅籠銭はたごせん)” の例文
理由わけたゞしてみると、あの僧侶ばうずが道筋の宿屋々々で、旅籠銭はたごせんの代りに、その書を置いて往つたといふ事が判つた。
「なんの、遍路の者はお互いでございます。草鞋わらじえや旅籠銭はたごせんは大丈夫ですか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小田原をったものは三島にとまり、三島を発った者は小田原に泊ることになるので、東海道を草鞋であるくものは、否が応でもこの二つの駅に幾らかの旅籠銭はたごせんを払って行かなければならなかった。
半七捕物帳:14 山祝いの夜 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
筑波つくばの脱走者、浮浪の徒というふうに、世間の風評のみをに受けた地方人民の中には、実際に浪士の一行を迎えて見て旅籠銭はたごせん一人前弁当用共にお定めの二百五十文ずつ払って通るのを意外とした。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
持ちあわせの小遣こづかいも尽きて、もう一晩の旅籠銭はたごせんさえなくなったため、まだヨロつく足をこらえ、時々、渋るように痛む腹をおさえて、青い顔をしながら宿を出た姿は、笑止でもあるが
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「だからといって、もっと滅茶苦茶にしていいという法はない。江戸へ着くまでのあいだに、よく考えておくがいいよ。……なあに、途中の小遣こづかいや旅籠銭はたごせんぐらいは、何も返してくれとは、いいはしないから」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)