もちあ)” の例文
石黒氏は父親てゝおやに催促せられて、今まで下げ詰めだつた頭をもちあげた。見ると馬の上で左衛門尉の二つの眼が蝋燭のやうに光つてゐた。
堅い地を割って、草の芽も青々とした頭をもちあげる時だ。彼は自分の内部なかの方から何となく心地こころもちの好い温熱あたたかさき上って来ることを感じた。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
病人は、まだ自分が生きて居たかといふ風に、頭をもちあげて部屋の内を見廻した。かすかなヒステリイ風のゑみが暗い頬に上つた頃は、全くの正気にかへつて居た。
死の床 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
まあ、新平民の中から男らしい毅然しつかりした青年なぞの産れやうが無い。どうして彼様あんな手合が学問といふ方面に頭をもちあげられるものか。其からしたつて、瀬川君のことは解りさうなものぢやないか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
穢多としての悲しい自覚はいつの間にか其頭をもちあげたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
青々とした芽は、其処そこにも、是処ここにも、頭をもちあげていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)