ほしいま)” の例文
この諷詠ということを忘れては発句も脇句もない。天高く地広く、諷詠をほしいままにするところに俳諧の精神があるのである。一旦いったん諷詠ということを忘れ去った時にはそこに俳諧はない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
一致している際にのみに食われて急に我に帰り、時計が鳴ってにわかに我に帰るというようであるから、間髪をれざる完全の一致より生ずる享楽をほしいままにする事ができんのであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一人の水夫があってほばしらの上から落日の大観をほしいままにし得た時、この感激を人に伝え得るよう表現する能力がなかったならば、その人は詩人とはいえない、とある技巧派の文学者はいった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
『法苑珠林』五三に竜樹の成立なりたちを述べて、〈南天竺国、梵志の種の大豪貴の家に出づ、云々。弱冠にして名を馳せ、ほしいままに諸国を歩み、天文地理、星緯図讖としん、および余の道術、綜練せざるは無し。
卒業の後東西に徂徠そらいして、日に中央の文壇に遠ざかれるのみならず、一身一家の事情のため、ほしいままに読書にけるの機会なかりしが故、有名にして人口に膾炙かいしゃせる典籍も大方は名のみ聞きて
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)