“抹(まっ)” の例文
海の波穏やかな色は雲なき大空の色と相映じて蒼々茫々(そうそうぼうぼう)、東は際限(はて)なく水天互いに交わり、北は四国の山々手に取るがごとく、さらに日向地(ひゅうがじ)は右に伸びてその南端を微漠煙浪(びぼうえんろう)のうちに抹(まっ)し去る
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
恋愛は各人の胸裡(きょうり)に一墨痕を印して外には見る可(べか)らざるも、終生抹(まっ)すること能わざる者となすの奇蹟(きせき)なり。然れども恋愛は一見して卑陋(ひろう)暗黒なるが如くに、その実性の卑陋暗黒なる者にあらず。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)