抒情詩じょじょうし)” の例文
つまり彼らは、俳句が抒情詩じょじょうしであることの本義を忘れて、単にこれを形態上のレトリックでのみ、皮相に解釈しているのである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
ステファン・マラルメは仏国の抒情詩じょじょうしをおぼらす「雄弁」を排斥した。彼は散文では現わされないものだけを詩の素材とすべきだと考えた。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
抒情詩じょじょうしでは子規の俳句や、鉄幹の歌の生れぬ先であったから、誰でも唐紙とうしった花月新誌や白紙はくしに摺った桂林一枝けいりんいっしのような雑誌を読んで、槐南かいなん
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
なみに明け浪にれる日々。それから毎日、海をみてくらしていました。だれやらの抒情詩じょじょうしではありませんが、ただ青く遠きあたりは、たとうれば、古き思い出。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
この蕪雑ぶざつなる研究の一章はつまびらかに役者絵の沿革を説明せんと欲するよりも、むしろこれに対する愛惜の詩情を吐露せんとする抒情詩じょじょうしの代用としてこれを草したるのみ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わたしは三十歳を越した後、いつでも恋愛を感ずるが早いか、一生懸命に抒情詩じょじょうしを作り、深入りしない前に脱却した。しかしこれは必しも道徳的にわたしの進歩したのではない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
例えば西洋の詩で、抒情詩じょじょうしと叙事詩の関係がそうである。一般に言われている如く、抒情詩は主観的の詩に属し、叙事詩は客観的の詩に属する。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
どんな空想的な夢物語でも多感な抒情詩じょじょうしでも、それが真の記録であるゆえに有益であり同時に美しいというのである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
のみならず第二の問題もやはり判然とはわからなかった。辰子は他人の身の上のように彼の求婚した時のことを話した。しかもそれは抒情詩じょじょうしよりもむしろ喜劇に近いものだった。——
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
抒情詩じょじょうしも禁止せられる。論文も禁止せられる。外国ものの翻訳も禁止せられる。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてこの「主観」こそ、まさしく蕪村のポエジイであり、詩人が訴えようとするところの、唯一の抒情詩じょじょうしの本体なのだ。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
例えば恋愛、人道、冒険、怪奇等の、すべて倫理感や宗教感に本質しているところの、抒情詩じょじょうし的、もしくは叙事詩的ロマンチシズムの文学である。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
感情に於ける二つのもの、即ち抒情詩じょじょうし的情操(情緒)と叙事詩的情操(権力感情)とが、人文に於て常に対流することは、前章に述べた通りである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)