所有主もちぬし)” の例文
彼女は杖の所有主もちぬしの中年の紳士を睨め付けたが、対手あいては一向知らん顔ですまして居た。女の怨めし気な表情はたまらなく彼を嬉しがらせた。
乗合自動車 (新字新仮名) / 川田功(著)
小柄な貧弱な体格の所有主もちぬしであったが腕にだけ不思議な金剛力があって柱の釘をぐいと引っこ抜くとは江戸中一般の取り沙汰であった。
それを、なんとかしてうまくだまして取り返そうとしているのと同じで、貴重品の所有主もちぬしにとっては、犬なんか捕まろうと逃げようとたいした関心ではない。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その金網籠の一つ一つに、それぞれ所有主もちぬしの木札が附いている奴へ、番人が、それぞれにを遣っている。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「知れねえとえばどうもいまだに知れねえ。」「何が。」「この木賃宿の所有主もちぬしがよ。」「やっぱり姉御あねごが持ってるのだろう、御庇おかげでこちとらは屋根代いらずだ。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
加留多と書いた傘の所有主もちぬしを注意した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
葬式彦は、自分が紙屑のような、貧弱な体格の所有主もちぬしなので、大男だの力持ちなどというと、人一倍興味を感ずるものとみえる。すぐに長い頸を伸ばして、高座に見入り出した。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
乾坤二刀がそれぞれ所有主もちぬしの手に入れちがいになった雪の夜、左膳は、深夜の法恩寺橋下に栄三郎を見失ったのち、またまたその足で化物屋敷に舞いもどって、あるじの源十郎と対談数刻
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そんな大きな財産の所有主もちぬしになれば、磯五も、何だかんだと小切りにいたぶることもできそうなものなので、それが、だいぶきまりかけていて、たった父の一件だけ引っかかっているとすれば
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
主君相馬大膳亮だいぜんのすけのために剣狂丹下左膳が、正当の所有主もちぬし小野塚鉄斎をたおして、大の乾雲丸けんうんまるを持ち出して以来、神変夢想流門下の遣手つかいて諏訪栄三郎が小の坤竜丸こんりゅうまるはいして江戸市中に左膳を物色し
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
当然、正当の所有主もちぬしたるそこもとへ即時返上つかまつるでござろう
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)