慾望よくぼう)” の例文
殊更、無理難題を吹っかけなくとも存分に慾望よくぼうをみたすことができるとすれば、先ず結構なお道楽というべきであろう。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
タダ僕ハ生理的ニ彼女ノヨウニアノ方ノ慾望よくぼう旺盛おうせいデナク、ソノ点デ彼女ト太刀打たちうチデキナイ。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
得意と、えがいてきた慾望よくぼうを、めちゃめちゃに裏切うらぎられた蛾次郎は、腹立たしさのあまり、出放題でほうだいなにくまれ口をたたいて、黒屋敷くろやしきの門をでようとすると、横からふいに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女に好かれたいなどという息ぐるしい慾望よくぼうを、この半箇月ほどの間に全部あっさり捨て去ったせいかも知れぬが、自分でも不思議なほど、心に少しのこだわりも無く楽しく遊んだのだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は生の慾望よくぼうと死の圧迫の間に、わが身を想像して、未練に両方にったり来たりする苦悶くもんを心に描き出しながらじっと坐っていると、脊中せなか一面の皮が毛穴ごとにむずむずしてほとんど堪らなくなる。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ひさしぶりで甲府こうふという都会のふんいきをかいだ蛾次郎には、さまざまなべ物の慾望よくぼう、みたいものや聞きたいものの誘惑ゆうわく、なにを見ても買いたい物、欲しいものだらけであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)