恍然うつとり)” の例文
靜子は眼を細くして、恍然うつとりと兄の信吾の事を考へてゐた。去年の夏は、休暇がまだ二十日も餘つてる時に、信吾は急に言出して東京に發つた。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
暫しは恍然うつとりとして氣を失へる如く、いづこともなくきつ凝視みつめ居しが、星の如き眼のうちにはあふるゝばかりの涙をたゝへ、珠の如き頬にはら/\と振りかゝるをば拭はんともせず
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「梅子、早くおしなネ」と言ひつゝ、お加女のチヨイと振り向く時、篠田の横顔、其目に入りしにぞ、「悪党ツ」と口のうちにツブやきつ、恍然うつとり立てる梅子を、思ふさまグイとにらみ付けぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昨夜わつちは何か悪いことでも為は仕ませぬか、と心配相に尋ぬるも可笑く、まあ何でも好いは、飯でも食つて仕事に行きやれ、とやさしく云はれてます/\おそれ、恍然うつとりとして腕を組み頻りに考へ込む風情
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
芝居がかりに戸口からなにか恍然うつとりもの案じ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
静子は眼を細くして、恍然うつとりと兄の信吾の事を考へてゐた。去年の夏は、休暇がまだ二十日も余つてる時に、信吾は急に言出して東京につた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『嗅んで見さいな、これ。』と云つて自分で嗅いで居たが、小さい鼻がひこづいて、目が恍然うつとりと細くなる。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)