思遣おもいやり)” の例文
婆々ばばあじみるッて芳さんはお笑いだが、芳さんなぞはその思遣おもいやりがあるまいけれど、可愛かわゆい児でも亡くして御覧、そりゃおのずと後生ごしょうのことも思われるよ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一と口にいえば二葉亭は家庭の主人公としては人情もあり思遣おもいやりも深かったが、同時に我儘わがまま気難きむずかし屋であった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それだから安達はさぞ愉快だろう、縦令たとい苦痛があっても、その苦痛は甘い苦痛で、自分の頭の奥に潜んでいるような苦い苦痛ではあるまいという思遣おもいやりをなすことを禁じ得ない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人が知らないと思ってさ、薬を飲ませてさ、そのせいで、わたい逢えないんじゃありませんか、命もいらない人よ。あんまり思遣おもいやりがない、何が気に入らないで、人形を壊したのよ、よ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたくしが話を聞いてくれそうなものには謂いました処で思遣おもいやりにも何にもなるものじゃあございません、旦那様が聞いて下さいましたので、私は半分だけ、荷を下しましたように存じます。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)