思慮かんがへ)” の例文
健は、いつもの様に亭乎すらりとした体を少し反身そりみに、確乎しつかりした歩調あしどりで歩いて、行き合ふ児女等こどもらの会釈に微笑みながらも、始終思慮かんがへ深い眼付をして
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
世間の多くの人たちは何もかも神樣におまかせして安心しようとします。ですが神樣は私共が思慮かんがへ深くしてゐますときにはお惠みを下さいますが、神樣でもわざはひを防ぐ手だては下さいませんですから。
待合まちあひなんといふ家業かげふは、いやだといふ殊勝しゆしよう思慮かんがへ
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其重苦しい沈黙だんまりの中に、何か怖しい思慮かんがへが不意に閃く様に、北のトツぱづれのめりかかつた家から、時々パツと火花が往還に散る。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
思慮かんがへのあるらしい顏だね、だが、どう見ても綺麗ぢやない。」
松原からの縁談は、その初め、当の対手の政治に対する嫌悪の情と、自分が其人の嫂であつたことに就ての、道徳的な思慮かんがへやら或る侮辱の感やらで、静子は兄に手頼たよつて破談にしようとした。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)