御伽おとぎ)” の例文
かく言うは、あえて氏が取材を難ずるにあらず。その出処に迷うなり。ひそかに思うに、著者のいわゆる近代の御伽おとぎ百物語の徒輩にあらずや。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし鹿の角に破られるような小屋の中でも、なお多くの流人は島の御伽おとぎを見つけて共に住んでいた。八丈ではその女を水汲みと呼ぶ習わしであった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大国の軍、国王の失せたもう事に驚きて戦う事なくして小国にしたがいぬ。大王深山にして嶺の木の子を拾い、沢の岩菜を摘んで行いたまいけるほどに、一人の梵士出で来りて御伽おとぎつかまつるべしとて仕え奉る。
ああ、今夜唯今、与五郎芸人の身の冥加みょうがを覚えました。……ついては、新蕎麦の御祝儀に、じいが貴女に御伽おとぎもうす。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのまぼろしが殊に楽しかったと見えて、話は御伽おとぎの本の絵にも残り、また諸国には鼠の隠れ里の故跡こせきここだと称して、耳を地面につけて聴くと、米うすの音がきこえると謂った
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
近代の御伽おとぎ百物語の徒に至りてはその志やすでにろうかつ決してその談の妄誕まうたんにあらざることを誓ひ得ず。ひそかにもつてこれと隣を比するを恥とせり。要するにこの書は現在の事実なり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)