後方あと)” の例文
後方あとが長浜、あれが弁天島。——自動車は後眺望あとながめがよく利きませんな、むこうに山が一ツ浮いていましょう。淡島です。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刀も抜かず右手にひっさげた、鉄扇をグッと突きつけたまま、呼吸を計りソロリソロリと、後方あとへ後方へと退いた。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ベナビデス君! もう少し後方あとへ下りたまえ! 騒ぐとすぐ弾が飛ぶからね。……どうだね、わかったかね? この拳銃ピストルの味が!」私は八フィートを隔ててベナビデスと向い合っていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「百城様、貴下は、こちらへお戻りなされましてから、姿を変えて——つい、この騒ぎの前など、和田様、高木様などの、後方あとを、おけになりました由、真実で、ござりましょうか」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
後方あとへ歸りませう、如何樣どんなに嶮しくても、今迄の途なら知つてゐますから」
(旧字旧仮名) / 吉江喬松吉江孤雁(著)
性来エゴイストである私が、縦令曲りなりにもそんな風に他人の感情などを憶測することなどは稀な話なのだが、私の心も酷く雨に祟られて、因循に歪み、後方あとへばかり逼つてゐたのである。
環魚洞風景 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
後方あと古市ふるいちでござりませんと、旦那様方がお泊りになりまする旅籠はござりませんが、何にいたしました処で、もし、ここのことでござりまする
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると今度は後方あとへも戻らずして前方まえへは進もうともせず岸から十間の距離をへだててただ岸姿きしなりに横へ横へとあたかも湖水を巡るかのように急速に革船は廻り出した。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そしてその次の瞬間には、反対あべこべに船は速く走って後方あとへ後方へと戻るのであった。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と言いもあえず、後方あと退さがって
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)