当惑たうわく)” の例文
旧字:當惑
蘿月らげつは一家の破産滅亡めつばうむかし云出いひだされると勘当かんだうまでされた放蕩三昧はうたうざんまいの身は、なんにつけ、禿頭はげあたまをかきたいやうな当惑たうわくを感ずる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
四十を越したお宗さんは「形見かたみおくり」を習つてゐるうちに真面目まじめにかういふことを尋ねたりした。この返事には誰も当惑たうわくした。誰も? ——いや「誰も」ではない。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さう云はれて見ると、自分も急に当惑たうわくした。宿の名前は知つてゐるが、宿の町所ちやうどころは覚えてゐない。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかし電車のとほつてゐる馬喰町ばくろちやう大通おほどほりまで来て、長吉ちやうきち横町よこちやうまがればよかつたのかすこしく当惑たうわくした。けれども大体の方角はよくわかつてゐる。東京に生れたものだけに道をきくのがいやである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)