巒気らんき)” の例文
雲は白く綿々めんめんとして去来し、巒気らんきはふりしきるせみの声々にひとしおに澄みわたる、その峡中に白いボートを漕ぐ白シャツの三、五がいる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
御山は春日かすがの三笠山と同じような山一つ、樹木がこんもりとして、朝の巒気らんき神々こうごうしく立ちこめております。
しかしついに彼らは帰って来なかった。しんしんと冷えて来た夜半の巒気らんきのなかで、勢いのおとろえた焚火を見つめながら、彼は何ということなしに、泣きたくなった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ほとんど俗世間に在るを忘却いたし(親子どんぶり、親子どんぶり)ふと眼前にあらわれたるは、幽玄なる太古の動物、深山の(言うという字に糸二つか)巒気らんきたゆとう尊いお姿
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
巒気らんきか、冷気か、雲が迅いか、日がかげるか、自動車の捲き起す疾風はやてか、私たちの胴ぶるいこそは繁くなると
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
机竜之助も、ふとこの朝、植田の邸を出て、さわやかな夏の朝の巒気らんきを充分に吸いながら、長者屋敷の方を廻って、何の気もなくこの二本杉のところまで来かかったのでありました。
君、古代のにおいがするじゃないか。深山の巒気らんきが立ちのぼるようだ。ランキのランは、言うという字に糸を二つに山だ。深山の精気といってもいいだろう。おどろくべきものだ。ううむ。
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ごめん——と口の中で云って彼は流れのそばにしゃがんだ。その小さな川の水をすくって口をすすぎ、顔を洗った。深山の水は切れるような冷たさであった。洗われた肌には爽昧そうまい巒気らんきが浸みとおった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
巒気らんきたゆとう尊いお姿が、うごめいていて、そうして夜網にひっかかったの、ぱくりと素早くたべるとか何とか言って、しまいには声をふるわせて、一丈の山椒魚を見たい、せめて六尺でもいい
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
巒気らんき水光すいこうと変幻する雲、雲、雲。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)