崎嶇きく)” の例文
わざと往き来の淋しい崎嶇きくたる岨道そばみちを、八瀬やせの方へ辿って行った千手丸の後姿が、夜な/\彼の夢の中で、小さく/\遠くへ消えた。
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分で自分のする悲劇を観察し批判し、われとわが人生の崎嶇きくを味わいみるのも、また一種の慰藉にならぬでもない。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
先に立った足健康あしまめの従者が高く振りかざす松火の光で、崎嶇きくたる山骨を僅に照らし、人馬物言わず真向きに走る。
稚子法師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある松はわずか六尺しか丈はなかったが、侏儒こびとのようにいじめつくされた枝と幹ばかりが太くなり、不具者のような形態が崎嶇きくとして枝をまじえていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
汝は峻険崎嶇きくたる山径をじ、至高の地帯に登りて、武士の最高なる者を見んとする乎。
武士道の山 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
朝夕の霧の中から浮び上る丘々や、その上に屹然きつぜんとして聳える古城郭から、遥か聖ジャイルス教会の鐘楼へかけての崎嶇きくたるシルウェットが、ありありと眼の前に浮かんで来た。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そこを、やっと抜けでて西康省に入ればいよいよ崎嶇きくをかさねる西域夷蛮地帯シフアン・テリトリーの山々。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
岳山重畳の果、山道崎嶇きくの奥に、それが見付け出されそうな気がします。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一つのみち崎嶇きくたる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)