容形なりかたち)” の例文
しかし見たところでは、人並すぐれた容形なりかたちで、別に不具者らしい様子もないので、妻も庄兵衛も不思議に思った。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「尋ぬる夫の容形なりかたち、姿は詞に語るとも、心は筆も及びなき、ぼんじやりとしてきつとして、花橘の袖の香に」以下の一節などは、いかにもヲフヱリヤが狂ひに狂ひし歌に比べて多くはぢず。
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そばにいて、相槌あいづちを打ちながら、頭をさげた武士の容形なりかたち、どこやら、見たようなと思うと、それもそのはず、人穴落城ひとあならくじょうのときに、法師野ほうしのまでともに落ちてきて別れわかれになった軍師ぐんし丹羽昌仙にわしょうせんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊下に洩れて来る灯の影がここまでは届かないので、男の容形なりかたちはよく判らなかったが、それが江戸の侍であることは、強いはっきりした関東弁で知られた。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お染は今夜の座敷へ出たはじめから碌々に顔をあげたこともないので、自分の客の年頃も容形なりかたちもなんにも知らないのであった。男は自分の相方を知らなかった。女は自分の客を知らなかった。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)