安火あんか)” の例文
「今日でなくとも、明日という日もありますから……。」と、お庄は安火あんかに入って、こっちを見ている糺の苦い顔を見ながら言った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
段々寒くなってからは、お前がした通りに、朝の焚き落しを安火あんかに入れて、寝ている裾からそっと入れてくれた。——私にはお前の居先きは判らぬ。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
かれは女の腕を捉えて、橋詰の番小屋へぐんぐん曵き摺ってゆくと、橋番のおやじは安火あんかをかかえて宵から居睡りをしているらしく、蝋燭のまでが薄暗くぼんやりと眠っていた。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
部屋には、東京で世帯を持った時、父親が小マメに買い集めた道具などがきちんと片着いて、父親が蒲団ふとんの端から大きい足を踏み出しながら、安火あんかに寝ていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
菊がすがれるころになると、新吉にわらわれながら、すそ安火あんかを入れて寝た。これという病気もしないが時々食べたものが消化こなれずに、上げて来ることなぞもあった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あの二階の部屋に、安火あんかに当ってクヨクヨしていたって始まらないから、気晴しにこうやってお手伝いしているんです。春が来たって、私は何の楽しみもありゃしない。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
先刻さっき出て行ったままに、鏡立てなどが更紗さらさきれけた芳村の小机の側に置かれて、女の脱棄てが、外から帰るとすぐ暖まれるように余熱ほとぼりのする土の安火あんかにかけてあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)