墨汁インキ)” の例文
障子も普通なみよりは幅が広く、見上げるような天井に、血の足痕あしあともさて着いてはおらぬが、雨垂あまだれつたわったら墨汁インキが降りそうな古びよう。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十七八歳の頃から「詩人」といふ言葉が、赤墨汁インキのやうに私の胸に浸み込んだ。「天才」といふ言葉が、唐辛子のやうに私の頭を熱くした。
いろ/\の言葉と人 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
お婆さんは信心深い女で、平素ふだんから教会で人を助け上げるのは大層立派な行ひだといふ事を教はつてゐた。それがどぶからであらうと、墨汁インキ壺からであらうと、そんな事は同じであつた。
矢張いつものやうに、今持つて来たばかりのポシエホンスキイ・ヘロルド新聞も、卓の上に置いてある。この地方新聞は活版の墨汁インキの匂、湿つた紙の匂、それから何か分からない、或る物の匂がする。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
卓子に相対して、薬局の硝子窓がらすまど背後うしろに、かの白の上服うわぎを着たのと、いま一人洋服を着けた少年と、処方帳をずばと左右に繰広げ、ペン墨汁インキを含ませつつ控えたり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある皮肉家ひにくやが、むかしの詩人は血で書いた、中頃なかごろになつては墨汁インキで書いた、それがごく近頃になつては墨汁インキに水を割つて書くやうだと言つたが、涙にしても水を割つたら、直ぐ瓶に詰まりさうなものだが