堕在だざい)” の例文
或は多少の危険さへをかせば、談林風の鬼窟裡きくつり堕在だざいしてゐた芭蕉の天才を開眼かいげんしたものは、海彼岸の文学であるとも云はれるかも知れない。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今余が面前に娉婷ひょうていと現われたる姿には、一塵もこの俗埃ぞくあいの眼にさえぎるものを帯びておらぬ。常の人のまとえる衣装いしょうを脱ぎ捨てたるさまと云えばすでに人界にんがい堕在だざいする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この便法を証得しょうとくし得ざる時、英霊の俊児しゅんじ、またついに鬼窟裏きくつり堕在だざいして彼のいわゆる芸妓紳士通人と得失をこうするのを演じてはばからず。国家のため悲しむべき事である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
画工であればこそ趣味専門の男として、たとい人情世界に堕在だざいするも、東西両隣りの没風流漢ぼつふうりゅうかんよりも高尚である。社会の一員として優に他を教育すべき地位に立っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)