執着しゅうぢゃく)” の例文
実に、寸毫すんごうといえども意趣遺恨はありません。けれども、未練と、執着しゅうぢゃくと、愚癡ぐちと、卑劣と、悪趣と、怨念おんねんと、もっと直截ちょくせつに申せば、狂乱があったのです。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雨月 怖ろしいとも存じませぬが、瞋恚しんい執着しゅうぢゃくが凝りかたまって、生きながら魔道におちたるお前さまは、修行の浅いわれわれの力で、お救い申すことはかないませぬ。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あおいの上などという執着しゅうぢゃくの深いものは、立方たちかた禁制と言渡されて、破門だけは免れたッて、奥行きのあるおんなですが……金子かねの力で、旦那にゃ自由にならないじゃなりますまいよ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いや、その嫉妬しっと執着しゅうぢゃくの、険な不思議の形相が、今もって忘れられない。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝食も忘れまして……気落ちいたし、心え、身体からだは疲れ衰えながら、執着しゅうぢゃくの一念ばかりは呪詛のろいの弓に毒の矢をつがえましても、目がくらんで、的が見えず、芸道のやみとなって、老人、今は弱果よわりはてました。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)