土州としゅう)” の例文
月が対岸の土州としゅう屋敷の上にかゝって、夢のような光が沿岸一帯の家々の座敷に流れ込む頃には、刺青はまだ半分も出来上らず、清吉は一心に蝋燭のしんを掻き立てゝ居た。
刺青 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わし土州としゅうの方へ往こうと思う、土州には、深尾主人ふかおもんど殿が、山内家やまのうちけの家老をしておるし、主人殿なら、わし人為ひととなりも好く知っておってくれるから、何とか好いことがあるかも知れん
水面に浮んだ女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
なんとなく雲脚くもあしの早さを思わせるような諸大名諸公役の往来は、それからも続きに続いた。尾張藩主の通行ほど大がかりではないまでも、土州としゅう雲州うんしゅう讃州さんしゅうなどの諸大名は西から。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
めですから、おウ、尾州びしゅう因州いんしゅう土州としゅう信州しんしゅう早籠はや二梃だ。いってやんねえ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
今じゃ薩州さっしゅうでも、土州としゅうでも、越前えちぜんでも、二、三そうぐらいの汽船を持っていますよ。それがみんな外国から買った船ばかりでさ。十一屋さんは昌平丸しょうへいまるという船のことをお聞きでしたろうか。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)