唇許くちもと)” の例文
老人の髪は銀のように白く、額には斜めに刀痕とうこんがあった、……上品な眉と唇許くちもとが、その刀痕と共に老人の身分を語っているように思われた。彼はよく眠っていた。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
官兵衛はその生命がけな気持を、ひとみにもこめて、秀吉の唇許くちもとを見つめた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色のやや浅黒いほそおもての顔に、憂いを含んだような切れ長の細い眼と、やはり薄くて小さな唇許くちもとが、娘のおしのでさえれぼれするほどの、際立った魅力をもっていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……かれはいま唇許くちもとに微笑さえうかべながら、ゆっくりと五人のうしろへ近づいていった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
意志の強そうな唇許くちもとと、まつげのながい、みひらいたような眼を持っている、体はがっちりとしては見えるが、まだどこやら骨細なので腰に差した大小や、背にくくりつけた旅嚢りょのうが重たげである。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
やや浅黒い頬のりんと緊った、紅をさしたように紅い小さな唇許くちもとに、控えめながら勝気らしさの表われている、どこか寂しい顔だちである……彼女は福井藩士、喜多勘蔵の二女香苗と名乗った。
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)