厚衣あつし)” の例文
鉢巻の取れた子供の羅紗帽らしゃぼうを長く延びたざんぎり頭に乗せて、厚衣あつしの恰好をした古ぼけたカキ色の外套を着て、兵隊脚絆へいたいきゃはんをはいていた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
所々綴布つぎの入つた腰迄の紺の厚衣あつしを、腹まで見える程ゆるく素肌に着て、細い木綿しぼりの帯を横に結んで、其結目の所に鼠色に垢のついた汗拭をげて居た。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
をつぶしてさしこをした厚衣あつしを二枚重ね着して、どっしりと落ち付いた君のすわり形は、私より五寸も高く見えた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
えりのホックをかけずに着慣れた学校服を脱ぎ捨てて、君は厚衣あつしを羽織る身になった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そして君は、着込んだ厚衣あつししんまで水が透って鉄のように重いのにもかかわらず、一心不乱に動かす手足と同じほどのせわしさで、目と鼻ぐらいの近さに押し迫った死からのがれ出る道を考えた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)