午前あさ)” の例文
なぜなら、その目出たい日の午前あさ、文部大臣森有礼もりゆうれいが殺されたと、玄関からけ込んできて知らせたものがあったとき、わけも知らず胸がドキンとした。
それは寂しい秋の午前あさであった。こまかい霧雨が壁に降りかかり、すべてのものが——空も建物も裸になった樹々も、霧にとざされた遠方おちかたも——おしなべて灰色に見えた。
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
午前あさの三時から始めた煤払いは、夜の明けないうちに内所をしまい、客の帰るころから娼妓じょろうの部屋部屋をはたき始めて、午前ひるまえの十一時には名代部屋を合わせて百幾個いくつへやに蜘蛛の一線ひとすじのこさず
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
そんな日の午前あさ、紫の竜紋りゅうもんあわせ被衣ひふを脱いで、茶筌ちゃせんのさきを二ツに割っただけの、鬘下地かつらしたじった、面長おもながな、下ぶくれの、品の好い彼女は、好い恰好かっこうをした、高い鼻をうつむけて
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
※とした看板がかけてあって、夏の午前あさは洗濯ものの糊つけで、よく売れるので忙しがっていた。平日ふだんでも細い板切れへ竹づッぽのガンクビをつけたのをもって、お店から小僧さんが沢山買いに来た。