十歩とあし)” の例文
すぐ川堤かわづつみを、十歩とあしばかり戻り気味に、下へ、大川おおかわ下口おりくちがあつて、船着ふなつきに成つて居る。時に三艘さんぞうばかりながれに並んで、岸の猫柳に浮いて居た。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あたかも彼が密かに懶惰に耽る自分の家の楽しい煖炉棚レジャンカか、それともわが家の敷居からものの十歩とあしとは離れてゐない、遠縁の者の開いてゐる居酒屋とおなじぐらゐ、彼に馴染の声が耳にはいつた。
ぢからのよわや十歩とあしに鐘やみて桜ちるなり山の夜の寺
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
手力たぢからの弱や十歩とあしに鐘やみて桜散るなり山の夜の寺
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
八郎はその時十歩とあしばかりげるようにしたのに、お悦はずんずん入った。少し手間取ったが、胸を反らして出て来た。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)