前鼻緒まえばなお)” の例文
おまけに前鼻緒まえばなおゆるんで居りますから、親指でまむしこしらえて穿き土間から奥の方へ這入って来ました。
自分は門を出ると同時に、日和下駄ひよりげたをはいているのに心づいた。しかもその日和下駄は左の前鼻緒まえばなおがゆるんでいた。自分は何だかこの鼻緒が切れると、子供の命も終りそうな気がした。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
真中から二つに折って前鼻緒まえばなおめ、それを百本ずつ集めて、前鼻緒をたばね、垂れ下った毛のような麻をとるために、火をつけて鳥渡ちょっと焼く——そうしたものを、問屋に持ちこむのだった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
宗悦は前鼻緒まえばなおのゆるんだ下駄を穿いてガラ/\出て参りまして、牛込の懇意のうちへ一二軒寄って、すこし遅くはなりましたが、小日向服部坂上はっとりさかうえ深見新左衞門ふかみしんざえもんと申すお屋敷へ廻って参ります。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)