先程さつき)” の例文
実は、それが先程さつきから一番気がゝりでならなかつたんだ。それが云ひ出せなかつたので、他のことを喋舌つてゐたんだ、苦々しく。
素書 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「あの……先程さつき、若旦那様とご一緒に、自転車で戸山とやまはらを一と廻りするんだつて、出かけたやうでございます」
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
それから、言ふのを忘れたが、……先程さつき此処に来る時、あの森の傍で、がさ/\音がるから、何かと思つて、よく見ると、あの娘つ子め、何かまご/\捜して居る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「まあ、いゝ氣持ちだこと!——先程さつきせき發作ほつさで少し疲れたわ。何だか眠れさうよ、でも行つてしまつては厭よ、ジエィン。私、あなたに側にゐてもらひたいの。」
鶴と大ちやんは花の下で先程さつきから活躍を続けてゐたのであつたが、あまり海棠の花が酣なので樽野は彼等の姿を見失つてゐたのである。
鶴がゐた家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「僕も二時から起される訳になつて居るんだが」と言つて、急に言葉を変へて、「それから、先程さつき聞くと、昼間あの娘つ子が喞筒ポンプの稽古を見て居たと言ふが、それア、本当かね」
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
純吉は、先程さつきから湯槽に仰向けに浸つて、悠々と胸を拡く延しながら、ぼんやりとその小さな陽を眺めてゐた。——快い朝だ、と彼は沁々と思つた。
明るく・暗く (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「若し差支へがなかつたなら少し教へてやつておくれな。先程さつきから待つてゐたんですから。」と母に云はれた私は
嘆きの孔雀 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そして、だんだんに彼の先程さつきの所謂「愚かさ」が解り、哀れな人と為りに同情出来るやうな心持になつた。
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
こんなに待たされるくらゐならば、先程さつき皆と一緒に行けばよかつた。僕だつて何も無理に叔父と一緒に遊びに行き度いのではない、約束をしたから待つてゐたのだ。
疳の虫 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「それにしても、好くも似た風習が此処にもあると思つて、先程さつきから感心してゐたところなのよ。」
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
御覧よ、あそこへ出て行くのは七郎丸と鱗丸だぜ、君に気づいて先程さつきから何かしきりに手を振つてゐたが君が上ばかり向いてゐる間に、もう声がとゞかぬ処へ出ちやつた。
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
若しかすると自分も先程さつきは彼と似たやうな芝居を演じてゐたのかも知れない——斯んなに群衆の出入が夥しく、凡そ足跡の絶間は十秒の間もなさゝうに思へるのであるが
日本橋 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
母は綾子が淋しさうな顔付をして居るので、屹度先程さつきの買物が気に入らないのだらうと察した。
秋雨の絶間 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「どうなさつたの。貴方一体先程さつきから何を云つてゐらつしやるの。」と尋ねました。
駒鳥の胸 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
もう殆んど生体しやうたいもなく酔つてゐると見へて一挙動/\が、夥しくテンポの鈍い注意深さに囚はれてゐる見たいであつたが、箱の蓋は先程さつきから開け放しになつてゐるのも承知であつたらしく
夜の奇蹟 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
先程さつきの恋物語に、同情して、運命の敵し難さを共々に咒つてやつて、涙を流しかけてゐた道子を、何故もつと泣せずに——然も悲しい努力をまで感じながら、笑はせてなど仕舞つたのだらう
凸面鏡 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「何か欲しいものはないの。先程さつきの指輪はあれで、気に入つて?」
秋雨の絶間 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
先程さつき俺達が此処へ来て見ると、これが——」
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)