兀鷹はげたか)” の例文
ベッドの脇には干物ひもののようにせた男が立っていた。彼は兀鷹はげたかのように眼をぎょろつかせて、病人の不思議な感じのする顔をじっと睨んでいた。
卑怯な毒殺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
右手に半ば諏訪すわ山にかくれて兀鷹はげたかの頭のように見えるまっ黒な丘をさしてこうつぶやくと、うつむきながらそこへ寄ってきた野良犬のらいぬの背をなでていた。
孤獨も孤獨ではない——いこひも憩ではない——饑餓といふ兀鷹はげたかが——私の横腹にくちばしと爪を突き立てゝゐる間は。
黒い羽毛の兀鷹はげたかなどのように、予らの舟はゆっくりと嘆きの橋の方へ漂い下っていたが、その時、数知れぬ炬火たいまつが大公の宮殿の窓から燃え上り、またその階段を走り下り
この時岩かどにとまりいたる兀鷹はげたか空を舞い、矢のごとく海面うみづらり魚を捕えたちさる。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
走り寄りて桃金嬢てんにんかの冠をささぐとか、真なるもの、美なるもの、兀鷹はげたかの怒、はとの愛、四季を通じて五月の風、夕立ち、はれては青葉したたり、いずかたよりぞレモンの香、やさしき人のみ住むという
喝采 (新字新仮名) / 太宰治(著)