儼乎げんこ)” の例文
まず山雲やまぐもと戦う 時に油然ゆうぜんとして山雲が起って来ますと大変です。修験者は威儀をつくろ儼乎げんこたる態度をもって岩端いわはな屹立きつりつします。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
なんだかこう、神聖なる刑罰其物のような、ある特殊の物、強大なる物、儼乎げんことして動かざる物が、実際に我身の内に宿ってでもいるような心持がする。
と若林博士は儼乎げんこたる口調で云い切った。依然として私を凝視しつつ、頭をゆるやかに左右に振った。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たとえ若気わかげの至りとは言いながら、雲水たちの一部に、こんな人間味が行われはじめたということを知った以上は、和尚として儼乎げんこたる処置を取ることでありましょう。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
天祖はじめて基をひらき、神代を経て、神武天皇その統を伝え、万世一系の皇室が儼乎げんことして日本を治め給う神国の真の姿の自覚こそ、明治維新の原動力になったのである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
破壊は免るべからざる破壊かも知れない。しかしその跡には果してなんにもないのか。手に取られない、かすかなような外観のものではあるが、底にはかのようにが儼乎げんことして存立している。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
黒部川対岸の崇嶺大岳は私の立っている山稜の峰頭に遮ぎられて、わずかに額を覗かせているに止まるが、儼乎げんこたる特有の山貌は紛るくもない。二羽の大鷲が劒岳の蒼空に悠々と輪を画いて舞っている。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)