他力たりき)” の例文
「まあ自分は自分だけの宗教に安心を求めるんですネ——他力たりきとでも言つたやうな。」斯う旦那さんが答へた。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ですが他力たりきに任せた時、丁度一ぱいに風をはらんでなめらかに走る船のように安全に港に入ることが出来たのであります。私たちは自力じりきの道のみが道でないことを知ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
念仏は、行者ぎょうじゃのために、非行非善なり。わがはからひにて行ずるにあらざれば、非行といふ。わがはからひにてつくる善にあらざれば、非善といふ。ひとへに他力たりきにして、自力を
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
慈円 他力たりきの信心と申して、お師匠様のお開きなされた救いの道でございます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「それはいけない。君は自力じりきでやらないで、他力たりきで切って貰うのか?」
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
他力たりきの信徒に変る。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ここまで書いて来ますと、その土瓶絵には他力たりき的な性質が、いとも濃いことを気附かれるでありましょう。その絵は何も力量の優れた者のみに授けられる仕事ではありません。
益子の絵土瓶 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
あなたの心の歩みは他力たりきの信仰を受け取る充分な用意ができていたのです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
知識と無知、有想うそう無想むそう自力じりき他力たりき、私はこの両者の対比について多くの暗示を受ける。民衆のどこに美の認識があろうや。そうして個人的作のどこに無想の美があろうや。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
民藝の美は他力たりき的な美である。自然な材料、自然な工程、素直な心、これが美を生む本質的力になる。それ故民藝の美は「救われる美」である。職人たちに自らを救う力はない。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
自然が守護せる作、他力たりきの作。この一個はそれを実証してくれるではないか。今からおよそ百数十年の昔、あの信楽の窯で、幾多の無名の職人たちが、かかるものを数限りなく作った。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この点でもこの質素な黒物は個人陶にとっておそるべき存在だといえる。かかる器物はいわば他力たりきの道で救われてしまう。それ故自分だけでは何の力もない者でさえ美しい作物を生んでしまう。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
実用的な品物に美しさが見られるのは、背後にかかる法則が働いているためであります。これを他力たりきの美しさと呼んでもよいでありましょう。他力というのは人間を越えた力を指すのであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)