亡父おやじ)” の例文
▲死んだ亡父おやじは、御承知のとおり随分ずいぶん幽霊ものをしましたが、ある時大磯おおいその海岸を、夜歩いて行くと、あのザアザアという波の音が何となく凄いので
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
貴方あんたわしを甥だの前の忰だのという心を出しては済まないよ、叔母とも甥とも思わず真の他人と思って居なければ、国の亡父おやじのお位牌いへいに対して済まないよ、えゝかえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
時に亡父おやじの眼玉が壁の上からぴかりと落ちて来た。雨の音がざあっとする。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
亡父おやじは馬の家じゃなかったけれど、大の所好すきで、馬術では藩で鳴らしたものだそうだ。それだから、私も小児こどもの時分稽古けいこをして、少しは所得おぼえがあるので、馬車会社へ住み込んで、馭者となった。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
▲『四谷』の芝居といえば、十三年前に亡父おやじが歌舞伎座でした時の、伊右衛門いえもん八百蔵やおぞうさんでしたが、お岩様のばちだと言って、足に腫物しゅもつが出来た事がありました。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
▲それから、故人の芙雀ふじゃくが、亡父おやじ菊五郎きくごろうのところへ尋ねて来た事、これはみやこ新聞の人に話しましたから、彼方あっちへ出たのを、またお話しするのもおかしいからします。
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)