亀縮かじか)” の例文
晩秋の夕の露気に亀縮かじかんだ山の祖神おやのかみの老翁は、せめてこのかがり火に近寄ってあたりたかったが、それは許されないことである。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「うむ、馬を小舎こやに繋いで置いたから、急いで牡蠣を一ますやつてくれ。」フランクリンはかう言つて、亀縮かじかむだ掌面てのひらおとがひを撫でまはした。
手が亀縮かじかんでいるので、鼻緒を立てるのに暇がかかって、半七はようように下駄を突っかけて、泥だらけの手を雪で揉んでいるころへ、このあいだの按摩が馴れた足取りですたすた歩いて来た。
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
火の周囲まはりには田舎の旅の者と仲間の弁護士が四五人、亀縮かじかむだ手を出してふるへてゐた。どの手もどの手もまだ運を掴むだ事が無いらしかつた。
と同時に不思議や亀縮かじかんでいた異性に対する本能の触手が制約のむちを放れてすくと差し延べられるのを感じた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
翁はから火を見ながらかさかさ乾いて亀縮かじかむ掌を摩り合わせて「娘が子というものは」と考えた。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)