丈夫じょうふ)” の例文
丈夫じょうふふたたび辱めらるるあたわずと答えた。その言葉がひどく元気のなかったのは、衛律に聞こえることをおそれたためではない。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
筆者が女であるとすれば、夜陰に乗じてこれを届けたに相違ないが、それは丈夫じょうふもなしがたいような大胆不敵な所業であるから、父は意外に感動した。
(新字新仮名) / 坂口安吾(著)
時雄の眼に映じた田中秀夫は、想像したような一箇秀麗な丈夫じょうふでもなく天才肌の人とも見えなかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
鴻雁こうがん翔天しょうてんつばさあれども栩々くくしょうなく、丈夫じょうふ千里の才あって里閭りりょに栄すくなし、十銭時にあわず銅貨にいやしめらるなぞと、むずかしき愚痴ぐちの出所はこんな者とお気が付かれたり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
彼は「磧裡せきり征人せいじん三十万、一時こうべめぐらして月中に看る」の詩をののしりて曰く、「これ丈夫じょうふの本色ならんや」と。しかれども彼は故郷を懐えり、故郷の父母は、恒に彼の心に伴えり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
その夜、王の枕もとに、ひげも眉もことごとく白い一個の丈夫じょうふがあらわれて、お前はなぜおれの左の足を傷つけたかと責めた上に、持ったる杖をあげて王の左足を撃ったかと思うと、夢は醒めた。
一個の丈夫じょうふたる太史令たいしれい司馬遷しばせん天漢てんかん三年の春に死んだ。そして、そののちに、彼の書残した史をつづける者は、知覚も意識もない一つの書写機械にすぎぬ、——自らそう思い込む以外にみちはなかった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)