一重羽織ひとえばおり)” の例文
久米君は見兼みかねて鉄条綱の向から重い書物の包と蝙蝠傘とを受取ってくれたので、私は日和下駄の鼻緒はなお踏〆ふみしめ、つむぎ一重羽織ひとえばおりの裾を高く巻上げ、きっと夏袴の股立ももだちを取ると
山嵐はどうしたかと見ると、紋付もんつき一重羽織ひとえばおりをずたずたにして、向うの方で鼻をいている。鼻柱をなぐられて大分出血したんだそうだ。鼻がふくれ上がって真赤まっかになってすこぶる見苦しい。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その人々の中に長吉は偶然にも若い一人の芸者が、口には桃色のハンケチをくわえて、一重羽織ひとえばおり袖口そでぐちぬらすまいためか、真白まっしろな手先をば腕までも見せるように長くさしのばしているのを認めた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
君江はたてシボの一重羽織ひとえばおりをぬいで肩掛と一つにして風呂敷ふろしきに包んだ。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「わたし、ほしくないわ。」と君江も一重羽織ひとえばおりひもを解きかけた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)