一丁字いっていじ)” の例文
大変性質たちのいい男で、今では修業もだいぶでき上がっていると云う話だったが、会って見ると、まるで一丁字いっていじもない小廝こもののように丁寧ていねいであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし文字もんじのあるものが、目に一丁字いっていじのない床屋の若いものに、智慧ちえをつけて、こうじたいたずらをしたのが害になったんだから、なお責任は重大です。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十八宿しゅくの名をことごとくそらんじていながら実物ほんものを見分けることのできぬ俺と比べて、なんという相異だろう! 目に一丁字いっていじのないこのさるの前にいるときほど
多くはある時代のある片田舎の、ほとんど眼に一丁字いっていじもなき人々の製作であった。村の老いた者も若き者も、また男も女も子供さえも、共に携わった仕事である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
すなわち目に一丁字いっていじなきこれ等の女性文人が、特に物識ものしりとして尊ばれた根拠である。
試みに思え、古来一丁字いっていじを知らざる母が、よくその子を育して遂に天下の一大家となしたる者あるにあらずや。この母氏の教育の法を知らんと欲せば、歴史を開きて比々ひひ見るべきなり。
教育の事 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
白人の中には花のごとき窈窕ようちょうたる美女もありながら、しかも彼らも彼女らも眼に一丁字いっていじなく、奴隷は祖先代々奴隷としての境遇に甘んじてその範囲を出ることは一歩たりとも許されないのです。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)