馬士まご)” の例文
昔も近江街道を通る馬士まごが、橋の上に立った見も知らぬおんなから、十里さきの一里塚の松の下のおんなへ、と手紙を一通ことづかりし事あり。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後を顧みれば馬士まごのイブラヒム君土耳其帽を横ちよにかぶり、真黒く焼けし顔を日に曝し、荷物の上に両足投げ出して、ほくほく歩ます。
ひ居候が妻も馬士まご行衞ゆくゑ更に知れ申さず候間東西を尋ね廻り往來わうらいの人々に承はるに今此先へ馬士が女を引立て行たりと申により猶ほあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此の山口と申す処にも五六軒温泉宿が有ります、其のほか餅を売ったりあるいすし蕎麦などを売る店屋が六七軒もあります。小坂こざかへかゝると馬士まご
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
馬士まごや牛追いの中にはくわ煙管ぎせるなぞで宿村内を歩行する手合いもあると言って、心得違いのものは取りただすよしの触れ書が回って来たほどだ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今日こんにち御囘向をたのみまゐらする佛と申すは、わが身寄りでも無し、敵でもなし、味方でも無し、罪なくして相果てたる紀之介きのすけといふ馬士まごでござる。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
肥車こやしぐるまが通う。馬士まごが歌うて荷馬車をいて通る。自転車が鈴をらして行く。稀に玉川行の自動車が通る。年に幾回か人力車が通る。道は面白い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もよひてさぶ馬士まごの道々語りて云ふ此宿も今は旅人りよじんを當にもなさず先づ養蠶一方なり田を作るも割に合はぬゆゑ皆な斯樣かやうに潰して畑となし豆を作るか桑を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
二人とも朝ッパラからヘトヘトに疲れていたので、宿屋からすすめられるままに馬に乗ったら、その馬を引いた馬士まごが、途中の宿場で居酒屋に這入った。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
局量の小なる一笑するにへたり。これ己れたまたま滑稽よりして俳諧に入りしかばしか言ふのみ。濁酒を好む馬士まごの清酒を飲んで酒に非ずといひたらんが如し。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一同はその教えられた通りにまたもや一里半ほど進むと、今度は頬被ほおかむりの馬士まごがドウドウと馬をいてやって来たので、もう雲巌寺も間近だろうと胸算用をしながら
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
立派な衣装いしょう馬士まごに着せると馬士はすぐ拘泥してしまう。華族や大名はこの点において解脱の方を得ている。華族や大名に馬士の腹掛はらがけをかけさすと、すぐ拘泥してしまう。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
い、好い、全く好い! 馬士まごにも衣裳いしようふけれど、うつくしいのは衣裳には及ばんね。物それみづからが美いのだもの、着物などはどうでもい、実は何も着てをらんでも可い」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
浅間神社のうしろからならでは、出すまじき馬を、番頭が気をかして、宿まで馬士まごにひかせて来てくれたが、私はやはり、参詣を済ませてから乗りたいため、馬を社後まで戻させ
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
此処ここは妙なところで馬でも何でも腹が減ると、たちすくみになると云い伝え、毎日何百ぴきとも知れず、荷を付けて上り下りをする馬士まごまで、まさかの用心に握り飯を携帯もたぬ者は無いとの事だ
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
やっと動き出したので手をはなすと、馬士まご一人の力ではやはり一寸ちょっとも動かない。
断片(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ウガチとかコガシとか申す者は空抜うろぬきにしてと断りながら、青内寺せいないじ煙草たばこ二三服馬士まごりの煙管きせるにてスパリ/\と長閑のどかに吸い無遠慮にほださしべて舞い立つ灰の雪袴ゆきんばかまに落ちきたるをぽんとはたきつ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
藤の茶屋女房にょうぼほめ/\馬士まごつどふ
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
これが豆腐とうふなら資本もとでらずじゃ、それともこのまま熨斗のしを附けて、鎮守様ちんじゅさまおさめさっしゃるかと、馬士まごてのひら吸殻すいがらをころころる。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うばひ取しに聊か相違なしと申立しにぞ大岡殿は馬士まごに向はれ其方は最早もはや用事の相濟あひすみたり引取れといはれしかば其儘馬士まごは白洲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
聞くところによると、小諸こもろ牧野遠江守まきのとおとうみのかみの御人数が追分おいわけの方であの仲間を召しりの節に、馬士まごが三百両からの包みがねを拾ったと申すことであるぞ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
勿体もっていねえ、馬士まごや私のようなものゝ機嫌気づまを取りなさるかと思えば気の毒だ、それがために失礼も度々たび/\致しやした
地蔵さまの足もとから二間ほども離れたすすきむらのなかに馬士まご張りの煙管きせるの落ちていたのを発見したが、捜査の必要上、今まで秘密に付していたのであった。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すなはち従ひ来れる馬士まごを養ひて家人となし、田野を求めて家屋倉廩そうりんを建て、故郷京師けいし音信いんしんを開きて万代のはかりごとをなすかたわら、一地を相して雷山背振の巨木を集め
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
さして行かんには此の峠など小さき坂とも見做すべし風越かぜごしみねといふも此あたりだと聞しかど馬士まごねから知らずかへつて此山にて明治の始め豪賊を捕へたりなどあらぬ事を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
これが侍であつて馬士まごでない所(それはまげと服装と刀とでわかるが)も面白いが、馬が風の薄にでも恐れたかと思ふやうな荒々しき態度のよく現はれる処も面白い。(五月二十二日)
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ジヤルルック君車上より声かけしが、めず。車を下りて呼びさまし来る。此は夜をこめてエルサレムより余等の乗る可き馬をき来り此処こゝに待てる馬士まごイブラヒム君とて矢張シリヤ人なり。
馬士まごもどるのか小荷駄こにだが通るか、今朝一人の百姓に別れてから時の経ったはわずかじゃが、三年も五年も同一おんなじものをいう人間とは中をへだてた。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おこしもたてず突殺す故馬士まご仰天ぎやうてんなしにげんと爲すを一人の旅人飛蒐とびかゝつて是をも切殺すに供の男は周章狼狽あわてふためきあとをも見ずして迯歸にげかへりける故やがて盜賊は荷繩になは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いや、もう、お話にならねえ」と、治六は帳場の前にぐたりと坐って馬士まご張りの煙管きせるをとり出した。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
洩りてえりる淺間の山の雪おろし弓なりに寐るつる屋の二階是等も何ぞの取合せと思ふ折しも下屋したや賑はしく馬士まご人足のひたるならん祭文さいもんやら義太夫やら分らぬものを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
菊川の宿場に程近く、後になり先になって行く馬士まごどものワヤク話を聞くともなく聞いて行くうちに、銀之丞はフト耳を引っ立てて、並んで曳かれて行く馬の片陰に近付いた。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其の内雑木山がありまして、左右から生茂りて薄暗い所へきますと、馬士まごが立留って
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その馬士まごというのはまだ十三、四の子供であったが、余はこれと談判して鳥井峠頂上までの駄賃を十銭と極めた。この登路の難儀を十銭で免れたかと思うと、余は嬉しくって堪まらなかった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
馬士まごもどるのか小荷駄こにだとほるか、今朝けさ一人ひとり百姓ひやくしやうわかれてからときつたはわづかぢやが、三ねんも五ねん同一おんなじものをいふ人間にんげんとはなかへだてた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
子之介 十年以前野洲の河原で馬士まごを殺したはわが仕業と、あからさまに名乘つて出て、ゆかりのものを探し求め、むかしの罪を償ふために、あつく扶持して取らせると
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
声高く話す馬士まごどもの言葉を一句も聞き洩らすまいと腕を組み直し、笠を傾けて行った。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
只今とは違ってひらけぬ往来、その頃馬方が唄にも唄いましたのは木曾の桟橋かけはし太田の渡し、碓氷峠うすいとうげが無けりゃアいと申す唄で、馬士まごなどが綱をきながら大声で唄いましたものでございます。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒婆くろばばどの、なさけない事せまいと、名もなるほど黒婆というのか、馬士まごが中へ割ってると、かしを返せ、この人足めと怒鳴どなったです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お園と六三郎とが心中した日に、神崎では御駕籠の十右衛門という者が大勢の馬士まごを斬った。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
のがれつべうもこそあらじと見えつるが、虹汀少しも騒ぐ気色けしきなく、ひ奉りし仏像を馬士まごに渡し、網代笠あじろがさの雪を払ひて六美女に持たせつ、手に慣れし竹杖を突き、衣紋えもんつくろ珠数じゅず爪繰つまぐりつゝ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
心当りを尋ねようと出立しましたは九月の三日、唯上州小川村と聞いた計りで、女の独旅ひとりたびでござりますから、馬士まごや雲助などの人の悪い奴にからかわれ、心細くも漸々よう/\のことで中仙道の大宮宿おおみやじゅく泊り
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大方、その馬士まごも、老人としよりも、もうこの世の者じゃあるまいと思う、私は何だかその人たちの、あのまま影をうずめた、ちょうどその上を、ねえさん。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
由「コウ馬士まごさんどうだい、馬はれはせんかえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
がたくた引込ひっこむ、石炭を積んだ大八車の通るのさえ、馬士まご銜煙管くわえぎせるで、しゃんしゃんとくつわが揺れそうな合方となる。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬士まご轡頭くつわをしっかと取って、(やあ、黒よ、観音様念じるだ。しっかりよ。)と云うのを聞いて、雲をかいかとあやぶ竹杖たけづえを宙に取って、真俯伏まうつぶしになって
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のんきな馬士まごめが、此処ここに人のあるを見て、はじめて、のっそり馬の鼻頭はなづらあらわれた、真正面ましょうめんから前後三頭一列に並んで、たらたらりをゆたゆたと来るのであった。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このおなじ店が、むしろ三枚、三軒ぶり。かさた女が二人並んで、片端に頬被ほおかぶりした馬士まごのような親仁おやじが一人。で、一方のはじの所に、くだんの杢若が、縄に蜘蛛の巣を懸けて罷出まかりいでた。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生垣の外は、馬士まごやら、牛士うしかた、牛車、からくたと歩行あるいて、それらしいのもありません。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ところでさて、首に巻いた手拭てぬぐいを取って、はたいて、馬士まごにも衣裳いしょうだ、芳原かぶりと気取りましたさ。古三味線を、チンとかツンとか引掻鳴ひっかきならして、ここで、内証で唄ったやつでさ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)