途切とぎ)” の例文
それで暫らく二人の無邪気な会話は途切とぎれたが、着物を畳んでいるお君の手は休まない。米友は両手であごを押えて下を向いていたが
泣きながら云うあによめの言葉は途切とぎれ途切れにしか聞こえなかった。しかしその途切れ途切れの言葉が鋭い力をもって自分の頭にこたえた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで話もたちまち途切とぎれた。途切れたか、途切れなかッたか、風の音にまれて、わからないが、まずは確かに途切れたらしい。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
その声は力なく、途切とぎれ途切れではあったが、臨終の声と云うほどでもなかった。彼女の眼は「何でもいいからそうっとしといて頂戴ちょうだいね」
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
たゞ、あの、此處こゝは、何處どこ……其處そこ……とわたしつてかしました時分じぶんだけは、途切とぎれたやうに提灯ちやうちんかくれましたつて。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
家なみが途切とぎれて、また一丁ばかり闇が続いた。寺である。墓地の一部が、じかに路に沿っている。古い石塔が、提灯の火で煙のように見える。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
疑ひ、私がおそれてゐた、その疑ひの色がハナァの面に現はれた。「パンの一片位なら上げてもいゝが、」彼女は一寸言葉を途切とぎらせてから云つた。
言葉ことばはまたしばらく途切とぎれた。と、程近ほどちかくのイギリス人のいへでいつとなくりはじめたピヤノのが、その沈默ちんもくをくすぐるやうに間遠まとほこえて※た。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そこは竹藪が一間程の間途切とぎれて、その向う側に、枕木の見える汽車の線路が長々と横わっているのが眺められた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
皆血相の変った引歪ひきゆがんだ顔ばかりで、醜態、狼狽、叫喚、大叫喚の活地獄いきじごくだ。その上から非常汽笛が真白く、モノスゴク、途切とぎれ途切れに鳴り響くのだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
明い電燈の光に満ちた、墓窖はかあなよりも静な寝室の中には、やがてかすかな泣き声が、途切とぎれ途切れに聞え出した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
話が途切とぎれましたが、……僕は今学校の鐘の音に聞きとれていたもんですから……あれを聞くと僕は自分の家のことを思いだします。僕の家は浄土宗の寺です。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一人ひとり女房にようばうがいつたときはなし暫時しばらく途切とぎれてしづまつた。一人ひとり女房にようばうさら大根だいこつまんでくちれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そういう風に話が決まると、二人とも何んだか急にぎこちなくなり、話が途切とぎれてしまった。私は鉛筆と紙を借り、次の日のプランを立てるために腹ンいになった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
皆の途切とぎれ勝ちな話をききながら、啓介は勝手に眠ったり眼を覚したりした。木下が立って行こうとすると、「も少し話さないか。」と啓介は云った。然し別に話すこともなかった。
二つの途 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ところ勿論もちろん秩序ちつじよなく、寐言ねごとのやうで、周章あわてたり、途切とぎれてたり、なんだか意味いみわからぬことをふのであるが、何處どこかにまた善良ぜんりやうなる性質せいしつほのかきこえる、其言そのことばうちか、こゑうちかに
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
お綱が話を途切とぎらすと、弦之丞もまたいつまでも、取りつきにくく無口でいた。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遠足の野路の子供の列途切とぎ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
ふときこえて途切とぎれた……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
途切とぎれてははらまれて
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
千代子は途切とぎれ途切れの言葉で、先刻さっき自分が夕飯ゆうめしの世話をしていた時の、平生ふだんと異ならない元気な様子を、何遍もくり返して聞かした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのまましばらくことば途切とぎれた。青木さんもおくさんも明るい、たのしげな表情へうじやうで、身動みうごきもせずにかんがへこんでゐた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
独り言のような洋一の言葉は、一瞬間彼等親子の会話を途切とぎらせるだけの力があった。が、お絹はすぐに居ずまいを直すと、ちらりと賢造の顔をにらみながら
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのキラキラした光りの海を青い、冷たい風が途切とぎれ途切れに吹きまくって、横町から五階の窓まで吹き上げて、妾の頬を撫でて行くのがトテモ気持ちがいい。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「多分私は身をゆだねるやうな家を他に見附けるまで此處にとめていたゞくでせう。」しかし私はもう長い言葉を云ふに堪へないやうに感じて言葉を途切とぎらせた。
小間物屋は、グビリグビリとはじめて、親方との話が途切とぎれるとかおを七兵衛の方へ持って来て
卯平うへいくはへた煙管きせるすこふるへるつて途切とぎれながらやうやれだけいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ところ勿論もちろん秩序ちつじょなく、寐言ねごとのようで、周章あわてたり、途切とぎれてたり、なんだか意味いみわからぬことをうのであるが、どこかにまた善良ぜんりょうなる性質せいしつほのかきこえる、そのことばうちか、こえうちかに
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
会話はぷつんと途切とぎれてしまった。帳場は二度の会見でこの野蛮人をどう取扱わねばならぬかを飲み込んだと思った。面と向ってらちのあく奴ではない。うっかり女房にでも愛想を見せれば大事おおごとになる。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
走りながら、明智が途切とぎれ途切れに叫ぶ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と言ってちょっと言葉が途切とぎれる。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あら、また途切とぎれた……
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
一度途切とぎれた村鍛冶むらかじの音は、今日山里に立つ秋を、幾重いくえ稲妻いなずまくだくつもりか、かあんかあんと澄み切った空の底に響き渡る。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
言葉ことばはそれなりに途切とぎれて、青木さんはにはくらやみのはうながめ入り、おくさんははりふたゝうごかしはじめた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しかし言葉が途切とぎれたのは、ほんの数秒のあいだである。男の顔には見る見る内に、了解の色がみなぎって来た。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
せっかくのことに、勢いこんで歌い出したのに、急に息がつまったもののように途切とぎれて
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
部屋の中をチラリと見まわした呉羽は、切株のテーブルの上に肘を突いて兆策の耳に顔を近付けた。兆策も熱心にモジャモジャの頭を傾けた。低い声が部屋中にシンシンと途切とぎれ散る。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
其處そこにもほりほとりあかびた野茨のばらえだたてつたりよこつたりして、ずん/\とゆきよろこぶやうに頬白ほゝじろがちよん/\とわたつた。夕方ゆふがたには田圃たんぼしろせん途切とぎれ/\につた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それで勿論話は途切とぎれてしまつたのだ。
夫人は途切とぎれ途切れに答えた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
津田は追窮ついきゅうもしなかった。お延もそれ以上説明する面倒を取らなかった。二人はちょっと会話を途切とぎらした後でまた実際問題に立ち戻った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
岸邊きしべまるくかたまつてゐた兵士へいし集團しふだんはあわててした。わたしもそれにつづいた。そして、途切とぎれに小隊せうたいあとつてやうやくもとの隊伍たいごかへつた。はげしい息切いきぎれがした。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
素戔嗚すさのおはしばらく黙っていた。するとまた思兼尊おもいかねのみことが彼の非凡な腕力へ途切とぎれた話頭を持って行った。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ここで、また話が途切とぎれます。
空気銃の御蔭おかげで、みんながまた満遍まんべんなく口をくようになった。結婚が再び彼らの話頭にのぼった。それは途切とぎれた前の続きに相違なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると甚太夫は途切とぎれ途切れに、彼が瀬沼兵衛をつけねらう敵打の仔細しさいを話し出した。彼の声はかすかであったが、言葉は長物語の間にも、さらに乱れる容子ようすがなかった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かうつづけて、高岡軍曹たかをかぐんそうはやがてことば途切とぎつたが、それでもまだりなかつたのか、モシヤモシヤの髭面ひげづらをいきませて、かんあまつたやうに中根なかね等卒とうそつかほ見詰みつめた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
こう云う時に重宝なのは迷亭君で、話の途切とぎれた時、きまりの悪い時、眠くなった時、困った時、どんな時でも必ず横合から飛び出してくる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
賢造は何か考えるように、ちょいと言葉を途切とぎらせたが、やがて美津に茶をつがせながら
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と、軍曹ぐんそうことば途切とぎつてドタンと、軍隊靴ぐんたいぐつ大地だいちみつけた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)