ふう)” の例文
暗にふうしてくれているようにも思えて、その心づくしに対しても、今度の東京行きに参加しなければ済まなく感じられたのであった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なぞのものぞ、ここに木賃の国、行燈の町に、壁を抜出た楽がきのごとく、陽炎にあらわれて、我をふうするがごとき浅黄の頭巾ずきんは?……
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
子供は、ややませた口ぶりで、お角のすることの効無かいなきかをふうするように言いますから、こんなことにも意地になったものと見え
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敬の著すところ、卓氏たくし遺書五十巻、予いまだ目をぐうせずといえども、管仲かんちゅう魏徴ぎちょうの事を以てふうせられしの人、其の書必ずきあらん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
またこの国が、古来からすぐれた人材を輩出はいしゅつしていながら、まだ一人の天下取りも出していない点をふうした言葉と考えてもさしつかえない。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貴下の随筆も必ず何か種の出所があるだろうというようなことを婉曲えんきょくふうした後に、急に方向を一転して自分の生活の刻下の窮状を描写し
随筆難 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さればこそ立法者、道徳者達は、常に徴税を以て暴政の表象となし、これを以てかみ王者をふうしも官僚を戒めて来たものである。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
二階へあがつた時今度空いた向ひのちひさい家へ移ることを修さんにふうされた。古尾谷さんに教へて貰つたが今日けふはよく覚えられた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「氷峰だツて、今窮してゐるから、ね。」義雄は、心安立こころやすだてに、暗にメール社でもツと奮發すべきだといふことをふうじかけた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
僕はもう世帯を持っていた。しかし野口君がふうしたように閨閥って程のこともない。前任地の知事の娘を貰ったのである。野口君こそ閨閥だった。
首切り問答 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして彼はまた意味ありげに前の方をあごでしゃくって見せた。その小路こうじを行けば丸山へ出るということをふうするように。
これ神が世界を造りし時汝はその計画に参与せしかとの問であって、造化の秘義に関する人間の無知をふうせし語である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
巷間こうかん流布るふされている俗謡は吉良郷民の心理をふうしたものであろう。まったく仕様がない。メイファーズである。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
現にこの頃では、妻の不品行をふうした俚謡りようをうたって、私の宅の前を通るものさえございます。私として、どうして、それを黙視する事が出来ましょう。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おせんは四五日のあいだ気がおちつかなかった、松造の言葉がなにをふうしているのかもわからないし、あんなに物を持って来て呉れる気持もわからない。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ああして提唱のある時に、よく参禅者の不心得をふうせられます」と云った。宗助は何も答えなかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしそこらにいた男どもがその若い馬士をからかう所を聞くと、お前は十銭のただもうけをしたというようにいうて、駄賃が高過ぎるという事を暗にふうしていたらしかった。
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
大口屋暁雨ぎょうう侠気きょうきと、男達おとこだて釣鐘庄兵衛の鋭い気魄きはくを持って生れながら、身分ちがいの故に腹を切るという、その頃では、まだ濃厚に残っていた差別待遇をふうした作を残している。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
額髪ひたひがみの湯のしづく落す苦しさも昼と夜に一度づつはめ申しさふらふ。ベツカ夫人、君は寿命のあり給はばコロンボに上陸し給ふやとある日私をふうし給ひさふらふ。心弱き人は醜くもさふらふかな。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そのころの八王子同心は、數も多かつた上に、極めて小祿で、川柳に「八王子ガタガタするがよつく賣れ」などといふのがあり、ろくな刀も買へなかつたことをふうしたのがあります。
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
星巌は「苦霖行」を賦して「雨毛更恐是兵凶。」〔雨毛タリ更ニ恐ル是レ兵凶ナラン〕といいまた「皇天降殃懲奢侈。」〔皇天殃ヲ降シ奢侈ヲ懲シム〕の如き語をなして時世をふうした。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼の諧謔かいぎゃく詩、四句詩、題韻詩、折句詩、ふう詩、歌謡詩、などは幾度も人々の口にのぼった。それらは往々にしてかなりあぶなっかしいものだったが、露骨なある種の機才がないでもなかった。
むろん男のことを「女らしい」というときは、十に八、九まで誹謗ひぼうする意旨いしであるが、しかし女自身に使用するときでも、おもしろからぬ意味をふうすることはしばしば見るところである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
中には真実めし艶書えんしょを贈りてき返事をと促すもあり、また「君徐世賓じょせいひんたらばわれ奈翁ナポレオンたらん」などと遠廻しにふうするもありて、諸役人皆しょう一顰一笑いっぴんいっしょううかがえるの観ありしも可笑おかしからずや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
世をふうして美濃みのに流され、後帰って出家し、東福寺に入り、仏照派の下僧げそうとなり、栗棘庵りっきょくあんに住み、右筆ゆうひつとなり松月庵に住んだ。で、徹書記てっしょきともよび松月庵正徹ともいう。また清巌せいがん和尚ともいった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
玉川のきぬ打つ槌と違ってこれはこらしょっと叩く磯屋の砧、市井丸出しの洒落のうちに、いわゆる人を食ったやつの寝覚めの悪さをも遺憾なくふうしている。月並なだけ、次の句はまず無難であろう。
それから千葉県ちばけんそれがし埼玉県さいたまけんそれがし非職ひしょくになったという話をしている。それはみな糟谷と同出身どうしゅっしん獣医じゅういで糟谷の知人ちじんであった。糟谷はいまの場長の話は遠まわしに自分にふうするのじゃないかと思った。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
はりに、青柳あをやぎ女郎花をみなへし松風まつかぜ羽衣はごろも夕顏ゆふがほ日中ひなか日暮ひぐれほたるひかる。(太公望たいこうばう)はふうするごとくで、殺生道具せつしやうだうぐ阿彌陀あみだなり。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
矢張井谷は内心不快を感じていて、こんなところがちょうど相当な御縁なのですよと、暗にふうしたのであるかも知れなかった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
柳沢吉保が、将軍を邸に迎え、宴席におのれの妻娘をはべらせた、というのをふうしたものだそうで、その作者である町絵師、英一蝶はなぶさいっちょうは、とがめをうけて流罪るざいになった。
山彦乙女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「あゝして提唱ていしやうのあるときに、よく參禪者さんぜんしや不心得ふこゝろえふうせられます」とつた。宗助そうすけなにこたへなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
と、物騒なこの頃をふうしてあった不気味な絵と句をおもい出して、ぶるッと、背すじをふるわせた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今このルクレチウスの言葉によって辛辣しんらつふうせられているとも見られない事はない。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
此奴、野球にかこつけて、もう一つの問題をふうしているのかと気を廻した。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかその才をあわれみて獄につなぎ、ふうするに管仲かんちゅう魏徴ぎちょうの事をもってす。帝のこころ、敬を用いんとするなり。敬たゞ涕泣ていきゅうしてかず。帝なお殺すに忍びず。道衍どうえんもうす、とらを養うはうれいのこすのみと。帝の意ついに決す。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これを中中なかなか味よきものと私は覚え申しさふらひき。機関長の君の見舞に見え、欧洲より極東まで寝て通り給ふ君などとふうし給ひさふらふ。大阪の小野氏にこの船中にてしよ対面を遂げんとはゆめ思はざりしことにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
男親一人にがんばらせないという底意をふうしてかかる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
愛吉傍在かたわらにあり。で、その際、ちとふうする処あるがごとくにいって、洋燈ランプを持って階下したへ下りた。あとはどうしたか知らないそうでさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
気の毒がり今少し辺幅へんぷくを整えるようにふうする者があったけれども耳にもかけなかったそして今もなお門弟達が彼を「お師匠さん」と呼ぶことを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
玄一郎はそれが自分をふうして云うように思えた、だが老人は唇のあたりに静かな微笑をうかべ、そんなけぶりはいささかもみせずに、四辻のところであっさりと別れていった。
いさましい話 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
去年も今年も、よろず正月の春景色に変りはないが、拝賀に参内する顔ぶれだけが変って、後醍醐のちょうに誇り栄えていた顔は一つも見えぬ——と、あんに人心をふうしている。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父はこういって、私をふうした。父の考えでは、役に立つものは世の中へ出てみんな相当の地位を得て働いている。必竟ひっきょうやくざだから遊んでいるのだと結論しているらしかった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
察するに一方は、路花墻柳ろかしょうりゅうの美に目を奪われるの甲斐無きことをあげて、修身斉家の大切なことを、それとなくふうしたに違いない。それに対し反対の仕ようは無いから、一方は黙っていたに違いない。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蜂にさされたことをふうしたのだった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そのくらいはまだよいとして弟子共が持って来る中元や歳暮せいぼの付け届け等にまで干渉かんしょうし少しでも多いことを希望して暗々裡あんあんりにその意をふうすること執拗しつよう
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
が、すねたのでも、ふうしたのでも何でもない、かのおんなの性格の自然に出でた趣向であった。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いざ実行となると見向きもなさらぬことをふうしたものだ、しかもどうやら御自分は幕政参画の御野心もあるように思われる、いや邪推ではない、江戸のさるたしかな筋から聞いているのだ
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
或る年の、或る月の夜には、ここで念仏講の部落の男女が、かねをたたき、経文きょうもんふうし、念仏踊りに夜すがら法楽してもいたろうにと、正成は、ここを自分らの死所に借りることの罪深さを痛感した。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と私はふうするように言ってやった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
早く官を退いて保身の術を講ずべきことをふうした文章博士もんじょうはかせ三善清行の第八子で、母は弘仁天皇の孫女であった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)