あお)” の例文
日光ひかりの加減であおくも見えまたある時は黄色くも見えまた黒くも見えるように、その紅巾も日光の加減で様々の色に見えるのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さびしい風が裏の森を鳴らして、空の色は深くあおく、日の光は透通すきとおった空気に射渡さしわたって、夕の影が濃くあたりをくまどるようになった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
空は澄むかぎりな清明を見せて、大路から捲きあがる黄いろいほこりが、いくら高くあがっても、そのあおさに溶け合わないくらいであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨日の昼頃から降り出して、一晩中烈しく吹雪ふぶいたのが、今朝は深いあおさに晴れ渡って、吹き溜りの稜線がきらきらと眩しかった。
和紙 (新字新仮名) / 東野辺薫(著)
光ったりかげったり幾通りにも重なったたくさんの丘の向こうに、川に沿ったほんとうの野原がぼんやりあおくひろがっているのでした。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「いや、遠慮せずともよい。中国民族の眼と、ドイツ民族の眼と入替えてみるのじゃ。おまえは、この、あおい眼が欲しくはないか」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
山に雪が融けて、紫だったその姿が、くっきりあおい空に見られるようになる頃までに、お島は三度も四度も父親の手紙を受取った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
同席の自分とびた公以外の同席に七人の客がいるが、そのうちの四人が日本人で、二人が赤髯あかひげで、他の一人は目玉のあおい女でした。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
林泉奥深うして水あおく砂白きほとり、鳥き、魚おどつて、念仏、念法、念僧するありさま、まこと末世まっせ奇特きどく稀代きたいの浄地とおぼえたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この二階のサン・ルームから松の枝越しに望まれるあおい海の背を見たり、レコードを聞いたり、他愛もない話に過すのであった。
淑貞にとっても、金髪であおい眼の面々、中国にいるアメリカ人とはどことなく違うここのアメリカ人である人々は、やはり退屈に思える。
春桃 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
花の大きさは二寸余で、六弁のものも八弁のもある。色はあおか白、中心に小さな紫弁がむらがってちょっと小菊の花に似ているもの
そう云って艇長は、蓄音器の把手ハンドルをまわし、「あおきドナウ」をかけた。三鞭酒シャムパンを抜く、機関室からは、兵員の合唱が洩れてくる。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
一般的見解に従ったまでだが、しかしあおく澄みきった眼は冷く輝いていて、近眼であるのにわざと眼鏡を掛けないだけの美しさはあった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
殊に驚くべきは、あお珊瑚礁リーフ魚よりも更に幾倍か碧い・想像し得る限りの最も明るい瑠璃るり色をした・長さ二寸ばかりの小魚の群であった。
埠頭にはすでに黒山のようなイキトス号見送り人の喚声が湧き起って眼球めだまあおい船員たちはせわしく出帆の準備に立ち働いている。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
白鳥は首をあげた。閃々せんせんと光る水はあおい火のように胸とを洗った。朝の微光が赤い雲を照らした。白鳥は力づいて立上った。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
おさく師匠は真顔になっていつ迄でも「はあーい」「はあーい」と返事をしながら、あおい眼を持つ少女と少年の相手をしているのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わたしの視ているあおい碧い波……あんなに碧い波も、ああ、昔、昔、……人間が視ては何かを感じ何かを考え何かを描いていたのだろうに
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
あのあおい眼玉をした赤鬼たちが、吾等の愛すべき家族をねらって爆弾を投じ、焼夷弾しょういだんで灼きひろげ、毒瓦斯どくガス呼吸いきの根を停めようとするのだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あおい海に沿った、遠くに緑の半島がかすみ、近くには赤い屋根のバンガロオが、処々ところどころに、点在する白楊はくよう並木路なみきみちを、曲りまわって行きました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それは、初夏のイタリーの空よりもあおく、夕空にかかる、この節の金星よりも輝やかしい、名も知れぬ一顆ひとつぶの宝石なのです。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
役人が通行すれば、別に茶をすすめた。こうしているうちに、ある日ひとりの若い女が来て水を求めた。女はあおい肌着に白い着物をきていた。
別にハイそれをながめるでもねえだ。美しい目水晶ぱちくりと、川上の空さあおく光っとる星い向いて、相談つような形だね。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は、ひなに似合わぬ美人で、色白のふっくりとした愛らしい顔と、大きなあおい眼と、やさしい口元とは、見るものを魅せずには置かなかった。
誤った鑑定 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あれが来がけに浪さんと昼飯を食った渋川しぶかわさ。それからもっとこっちのあおいリボンのようなものが利根川とねがわさ。あれが坂東太郎ばんどうたろうた見えないだろう。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
赤いかきの皮が細く綺麗につながってゆく。エメラルドは指にあおく、思出は彼女の頭の中をくるくると赤く、まざまざと巻返えされていると見える。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
気に入ったお馴染なじみの題目のいくつかは、その紙面からずっと浮き出して見えた。そしてその活字のかげに、古い城だの、あおい湖だのの姿が揺曳ようえいしていた。
『西遊記』の夢 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
豊かな金髪をちぢらせてふさふさとひたいに垂らしている。伏目につつましく控えているあおい神経質な鋭い目も、官能的な桜桃色の唇も相当なものである。
眼が深く大きくて海のようにあおく、皮膚が冷たくさえて、いつも月の光をうけているようなふしぎな感じを与えた。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
堤のすぐ向うにダニューブ河が流れていて、その低まるたびに、罌粟の波頭の間からあおい水面が断続してあらわれる。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
遠山のあおい色や夕陽の色も、一部はこれで説明される。煙草たばこの煙を暗い背景にあてて見た時に、青味を帯びて見えるのも同様な理由によると考えられる。
塵埃と光 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
すべてで三軒の家が馬蹄状の半島の背によりそい、周りは丹念に耕やされた石の畑に、青菜が調子はずれにあおい。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
その日は初冬の空が晴れて黄色な明るい日が射して、空があおあおと晴れており、夕方の空には星が一面に散らばって、静で穏かな一日の終りを示していた。
不動像の行方 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
われわれの存在を無視し愚弄ぐろうする、これよりはなはだしきものはない。われわれの眼のあおいうちは断じて——。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
もって自任し出すんだろう? 眼の黒い女・あおい女・茶いろの女・髪の毛の黒い女・それほど黒くない女・むしろ赤ちゃけた女——要するにすべての女が
見渡すかぎりはく皚皚がいがい、まれに見る氷の裂け目か、氷丘の黒い影のほかには、一点のさえぎるものなき一大氷原である。遙か南方にあおい海の狭い通路がみえる。
音楽的な魂は、一つの美しい肉体を愛する時にも、それを音楽として見る。魂を魅惑する恋しい眼は、あお色でも灰色でも褐色かっしょくでもない。その眼は音楽なのである。
湖畔の村々には夕けぶりが立ち出した。からすが鳴く。粟津あわづに来た時は、並樹の松にあおもやがかゝった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
鳥羽湾のあおい海と、美しい島々が眺められる、——ああいつもの場所だ、そう気づくのと同時に、もう小太郎とここへ来ることもできない、という悲しさがこみあげて
初蕾 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
摂政宮殿下の行啓を仰いで、ついその翌晩、お祭り気分の濃厚な、黄やあおや赤やの色々の装飾の中で、実に鮮かに一斉に電灯でんきいた。それから五分とは経たなかろう。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
あおい空のおもてにいて、八月の半ばを過ぎるころには早くも朝夕は冷たい秋めいた風を身に覚えるようになり、それとともにそぞろに都会の生活がなつかしくなってきた。
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
空はあおいという。けれども私はいう事が出来る。空はキメが細かいと。秋の雲は白いという。
触覚の世界 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ここは四方よもの壁に造付けたる白石の棚に、代々よよの君が美術に志ありてあつめたまひぬる国々のおほ花瓶、かぞふる指いとなきまで並べたるが、の如く白き、琉璃るりの如くあお
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
洲股すのまたノ駅ヲ経テ小越川ニいたル。蘇峡そきょうノ下流ニシテ、平沙へいさ奇白、湛流たんりゅう瑠璃るりノ如クあおシ。麗景きくスベシ。午ニ近クシテ四谷ニいこヒ、酒ヲ命ズ。薄醨はくり口ニ上ラズ。饂麺うんめんヲ食シテ去ル。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
先ず卯月うづきなかばごろ、池水あおくして緑あざやかなる不忍池畔でのめぐり合いを語り、それがえにしとなって、お互に訪問たずねかわすようになり、どうにもしてこの絶世の美の化身を
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そして、それ一つだけではなく、今まで見たことのない湖が二つ三つ、太陽にむかってあおい眼をあけていた。それぞれ教会堂のある、いくつかの白い村が、遠くの方に散らばっていた。
机の上には大きなすずりや厚い帳簿や筆立や算盤そろばんがごたごたといっぱいに置かれてあった。新聞におおわれているあお薬瓶くすりびんを捜しだしながら、彼れはふと大谷円三という封筒の文字に目を留めた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
それを見ると、父親は——考え深そうなあおい眼をした、背の高い、端正な身なりの、いつも何か野の花をボタンの穴に挿している人だったが——非常に腹立しそうな、困りきった様子を見せた。
洞窟のような眼窩がんかの奥には、まばたきも見えぬあおい眼が凝然としていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)