なみ)” の例文
いままでかがやいていた太陽たいようは、かくれてしまい、ものすごいくもがわいて、うみうえは、おそろしい暴風ぼうふうとなって、なみくるったのであります。
汽船の中の父と子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
北をさすを、北から吹く、逆らう風はものともせねど、海洋のなみのみだれに、雨一しきり、どっと降れば、上下うえしたとびかわり、翔交かけまじって
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
のつそりハッと俯伏せしまゝ五体をなみゆるがして、十兵衞めが生命はさ、さ、さし出しまする、と云ひしのどふさがりて言語絶え
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
岸へ打ち寄せる大海のなみ、それへ向かって声を練り、二年三年のその後には、あっぱれ日本一の芸術家となり、再度お目にかかります。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
暗緑色に濁ったなみは砂浜を洗うて打ち上がった藻草をもみ砕こうとする。おびただしく上がった海月くらげが五色の真砂まさごの上に光っているのは美しい。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
庭の面が、うつさうたる熱帯植物の叢だちで、そのさかんな触手は、亞字欄を越えて、なみのやうに蔽ひかぶさつてゐたからである。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
窓硝子にはなみの横腹を押しつけたように欅の若葉がべっとり朝露で粘りついています。その隙間から田舎町の静かな屋並びが覗かれます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
貝の音をもって、人馬の足なみを止め、まず中軍から、大喊呼だいかんこをあげた。それに和して、全軍もなみの如く武者声を張りあげた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさにこれ百万の妖鯨ようげいなみを蹴りて飛ぶ。英国が戦勝の威に乗じて、我くにに来りせまるは、特に識者を待ってこれを知らざるなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
頭上の葉のそよぎと、ピチャリピチャリとめるような渚の水音の外は、時たま堡礁の外のなみの音がかすかに響くばかり。
着衣は寒くおのずから家郷から遠くはなれたことをさとり、豪州の海の秋のなみははるかな空の果てにつらなっている。
南半球五万哩 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ドラムかんなどが、壕の入口にいくつも転がっていた。そして兵隊が壕を出たり入ったりしている。皆、年取った兵ばかりであった。静かななみの音がした。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
すでに一せき右舷うげんより左舷さげんに、の一せき左舷さげんより右舷うげんに、甲板かんぱんかたむき、なみ打上うちあげて、おどろくる海賊かいぞくどもは、大砲たいほう小銃せうじう諸共もろともに、雪崩なだれごとうみつ。
其勇ましいうめきの声が、真上の空をつんざいて、落ちて四周あたりの山を動し、反ツて数知れぬ人のこうべれさせて、響のなみ澎湃はうはいと、東に溢れ西に漲り、いらかを圧し
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
岸沿いに、岸の灯にひきよせられたり、そうかと思うとなみに押しのけられたりしていないで、水の深い沖を自分のコースに従って堂々進行する船になりたいって。
風知草 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かれはその日磯浜いそはまという町で宿をとった。名だかい大洗の磯に近く、一夜、旅寝の枕にどうどうとなみのとどろきを聞いて明かした。そこから水戸までは約四里である。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこにある低い天井も、簡素な壁も、静かな窓も、海の方から聞こえて来るなみの音も、すべてはこの山上の主人がたましいを落ち着けるためにあるかのように見える。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかも、慨歎しながらも彼等は共に、その世界に氾濫はんらんしたアメリカ文化のなみに捲込まれ、流されて行かざるを得ないのである。ラジオに、ジャズに、シネマが横行する。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
やがて洋上には、真白な水柱すいちゅう奔騰ほんとうした。攻撃機が一つ一つ、なみに呑まれてしまったのであった。
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
話の途切れ目をまたひとしきり激しくなりまさる風雨の音、なみの音の立ち添いて、家はさながら大海に浮かべる舟にも似たり。いくは鉄瓶てつびんの湯をかうるとて次に立ちぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
水平線では稲妻が白い条をなして絶えまなく黒雲から海へ放射され、沖一面に黒いなみのうねりを照らし出した。右にも左にもおそらくは屋根の上にも、閃々と稲妻が光った。
決闘 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼は三千代に対する自己の責任を夫程深く重いものと信じてゐた。彼の信念はなかあたまの判断からた。半ばこゝろの憧憬からた。二つのものが大きななみの如くに彼を支配した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なぜなら、あの岩角に当つて砕けるなみの姿から、常に一つの連想を呼び起し、渺茫たる水平線の彼方に、やゝもすれば奇怪な幻影を浮び出させるのがおきまりだつたからです。
海の誘惑 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
およそ半年はんとしあまり縮の事に辛苦しんくしたるは此初市のためなれば、縮売ちゞみうりはさら也、こゝにあつまるもの人のなみをうたせ、足々あし/\ふまれ、肩々かた/\る。よろづ品々しな/″\もこゝにみせをかまへ物をる。
枝珊瑚の根の方を岩にして、周囲まわりいかなみなみとを現わし、黒奴が珊瑚の枝に乗って喇叭らっぱを吹いているとか、陸に上がって衣物きものをしぼっているとか、遠見をしているとかいう形を作る。
原始のままに放りだされた樹林のなみには際涯が無い。——青くけぶって、西北の彼方に見えるのがマシケの山々。そのふもとからシラッカリの渓谷を越え、尾根をわたればわれらのトウベツの地。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
それからの靴の請負うけおひの時はドウだ、糊付けのかゝとが雨に離れて、水兵は繩梯はしごから落ちて逆巻さかまなみ行衛ゆくゑ知れずになる、艦隊の方からははげしく苦情を持ち込む、本来ならば、彼時あのとき山木にしろ、君にしろ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かたむくと見つつ待つまをとどろかずおほなみ凄しあがりきりたる
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ここにては、噫、晝のなみよるうしほ
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
まどかなる滄溟わだのはらなみ卷曲うねり搖蕩たゆたひ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
なみがすっかりしづまってゐた。
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
象の戯れるやうななみ呻吟うなり
メランコリア (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
かくれて湧くや春のなみ
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
のっそりハッと俯伏うつぶせしまま五体をなみゆるがして、十兵衛めが生命いのちはさ、さ、さし出しまする、と云いしぎりのどふさがりて言語絶え
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たちまち脚下の満城の地には、草摺くさずりのひびきや馬蹄の音が鏘々しょうしょうと、戛々かつかつと、眼をさましたなみのように流れ出すのが聞えてきた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆巻くなみのように、こずえや枝葉を空に振り乱して荒れ狂っている原始林の中を整頓せいとんして、護謨ゴムの植林がある。青臭い厚ぼったいゴムの匂いがする。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
椰子の葉摺はずれの音と環礁の外にうねる太平洋のなみの響との間に十代も住みつかない限り、到底彼等の気持は分りそうもない気が私にはするからである。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼等はむらがる自動車のなみを避けて、濠端ほりばたの暗い並木道に肩を並べた。妙に犯すことの出来ない沈黙が二人を占めてゐた。明子が先にそれを破つて青年に言つた。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
蝶つがいで出来た大扉が、あたかも左右にひらくように、今、岩がなみを分け、グ——と左右へ口をあけた。と、濛々もうもうたる黒煙り。つづいて黒船の大船首。胴が悠々と現われた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は三千代に対する自己の責任をそれ程深く重いものと信じていた。彼の信念は半ば頭の判断から来た。半ば心の憧憬どうけいから来た。二つのものが大きななみごとくに彼を支配した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此盃手に入ればさいはひありとて人のなみをなして取んとす。神酒みきは神にくうずるかたちして人にちらし、盃は人の中へなぐる、これをたる人は宮をつくりてまつる、其家かならずおもはざるの幸福あり。
挙げて光り眼は向けがたきてんなみ白雲角びやくうんかくに人交りける
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まどかなる滄溟わだのはらなみ巻曲うねり揺蕩たゆたひ
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ざうたはむれるやうななみ呻吟うなり
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
おとなふものはなみばかり
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
がけの脚には多分はなみ
楢ノ木大学士の野宿 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
なみがどぶーん。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どんななみでものりこえて見せようという覚悟が、いて覚悟と意識しないでも肚にすわっている。そこに洋々たる楽しさが前途に眺められた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浮世の栄華に誇れる奴等の胆を破れや睡りをみだせや、愚物の胸に血のなみ打たせよ、偽物の面の紅き色奪れ、斧持てる者斧を揮へ、矛もてるもの矛を揮へ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
床の間には日の出になみの掛軸がかかり、その前に真綿で作ったお供餅に細工ものゝ海老がっています。床柱には懸蓬莱が畳の上まで緑の蔓を曳いております。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)