)” の例文
くわかたげし農夫の影の、橋とともにおぼろにこれにつる、かの舟、音もなくこれをき乱しゆく、見る間に、舟は葦がくれ去るなり。
たき火 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
なんだかこう胸の中がきむしりたくなるような、いらいらした気持になって、じっとして坐っていることすらできなくなったのだ。
死体蝋燭 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「あの誘拐かどはかしなら、俺の方ぢやもう檢擧あげるばかりになつて居るんだ。滿更知らねえ顏でもない兄哥に恥をかせるでもないと思つてね」
傾けつくしたと見える徳利を一本飾りこみ、悠然として、お茶漬をきこんでいるところの一人を発見したものですから、茂太郎が
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人目を避けて、うずくまって、しらみひねるか、かさくか、弁当を使うとも、掃溜はきだめを探した干魚ほしうおの骨をしゃぶるに過ぎまい。乞食のように薄汚い。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
竜作は、つまずいたり、滑ったりしながら、なるべく街道へ一直線に到着しようと、手を、頬を、笹にいばらに傷つけつつ、き上った。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
額際ひたいぎわから顱頂ろちょうへ掛けて、少し長めに刈った髪を真っ直に背後うしろへ向けてき上げたのが、日本画にかく野猪いのししの毛のように逆立っている。
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「実は一つ聴いていただきたいことがあるのでして……」横瀬は、例のモジャモジャ頭髪かみに五本の指を突込むと、ゴシゴシといた。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
庄造も、母親も、今津へ出かけたきり帰らないので、一人ぼっちでお茶漬ちゃづけっ込んでいると、その音を聞いてリリーが寄って来る。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
小間使のまさがとんで来たとき、おしのは両手で胸をきむしり、けもののような声でうめきながら、夜具の中で身もだえをしていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
かれくるしさにむねあたりむしり、病院服びやうゐんふくも、シヤツも、ぴり/\と引裂ひきさくのでつたが、やが其儘そのまゝ氣絶きぜつして寐臺ねだいうへたふれてしまつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ヂュリ そのやうなことをそちしたこそくさりをれ! はぢかしゃる身分みぶんかいの、彼方あのかたひたひにははぢなどははづかしがってすわらぬ。
いくら歯をむき出しても、きゃっきゃっ騒いでも引きかれる気遣きづかいはない。教師は鎖で繋がれておらない代りに月給で縛られている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
亭主役として、すこし今夜は元気に酒をまいった様子であったが、まるで若者のような大きな鼾声いびきいて熟睡しているではないか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おくれ毛をき上げえりもとを直し腰を浮かせて私の話を半分も聞かぬうちに立って廊下に出て小走りに走って、玄関に行き、たちまち
饗応夫人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
胸まで来る深い湯の中で彼は眼を閉じ、ひそひそと何か話し合いながらトランクをき廻している彼女らの声を聞いているだけだった。
いのちの初夜 (新字新仮名) / 北条民雄(著)
主人の僧は先客があってもその上にどうかしてこの連中を泊めようとして、道に出て頭をきながら、ひょこひょこと追従ついしょうをしていた。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
従妹いとこたちがどの様にうらやましがるだらう、折角美事に出来て居るものだから惜しいけれど是非二三本はいて御馳走ごちそうせねばなるまいなどと。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
私は恐らくこれ以上簡潔に、これから述べようとする趣旨をいつまんで云うことはできない。だがもう一度次のようにも強く云おう
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし何処かへ打棄うっちゃらかしておいた、小さな皿や茶碗ちゃわんなどを一所懸命にき集めて、前と同じようなままごとを二人だけでしはじめた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
で、父が死んでからは小林は兄に代って家の経済をきりまわしていたが、そのうちいくらかの金をさらって家出をしたのだった。
その中へ林檎の裏漉しにしたのを入れてよくぜてそれからうつわごと水の中へ漬けると寒い時には一時間位で冷えて固まります。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いずくんぞ知らんこの種の句は月並つきなみ家者流において陳腐を極めたるものなるを。恥をかざらんと欲する者は月並調も少しは見るべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
島津太郎丸とあってみれば、でに入り込んだ敵方の間者を、人知れず片附けてしまうという、そういうやり方も出来がたい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女房は自ら自分の舗石しきいしと言ってる所にはえかかってる草を、古ナイフでき取りはじめたが、そうして草を取りながらつぶやいた。
しばらくしてあをけむり滿ちたいへうちにはしんらぬランプがるされて、いたには一どうぞろつと胡坐あぐらいてまるかたちづくられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お墓参りの後の、澄み渡ったような美奈子の心持は、たちまみだされてしまった。彼女ののんびりとしていた歩調は、急に早くなった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吾輩が昨夜ゆんべ焼いてしまった心理遺伝論のおしまいに、附録にして載せようと思っていた腹案の骨組みだけをつまんで話すと、こうだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かえって裏をくような事をされて私は大いなる禍いに遭ったかも知れないけれども、この人は実に私を信じて充分尽してくれた。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
きツイ先頃はお互にむしの居所のわるい所から言葉たゝかたれども考へ見れば吾儕わしが惡いとかう謝罪あやまつた上からは主は素より舍兄あにのこと心持を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
時折雪渓の一部が轟然ごうぜんたる反響を残して崩れ落ちる。岩をくネールの音や、不安定な石を落す冴えた音だけで、緊張した静けさが続く。
一ノ倉沢正面の登攀 (新字新仮名) / 小川登喜男(著)
僕は道端に立止まって二三分も乞食を眺め続けたが、その間彼は僕を黙殺して、片方しかない手で折れ曲った背中をボリボリいていた。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「うまいこと云ふ」とつぶやきながら笑つて牧瀬は、すこし歳子ににじり寄り、とうで荒く編んだ食物かごの中の食物と食器をき廻した。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
夜の更けかゝつた風が、泣きたい思ひの私の両脇りやうわきを吹いて通つた。私は外套のそでき合せ乍ら、これからどうしようかと思つてたゝずんだ。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
類焼るいしょうの跡にてその灰をき、かりに松板を以て高さ二間ばかりに五百間の外囲そとがこいをなすに、天保てんぽう時代の金にておよそ三千両なりという。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
きやううちるより洋燈らんぷうつして、火鉢ひばちきおこし、きつちやんやおあたりよとこゑをかけるにれはいやだとつて柱際はしらぎはつてるを
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そして、上り湯を思い切りよく浴びる。藤三は湯釜ゆがまの上に胡坐あぐらいては居ない。彼は流し場に出て来て、せかせかと忙がしそうに働く。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
その夜武士は、旅の疲れの深いねむりから、腕の痒さのためにさまされてしまつた。武士は昼間虱に吸はせた箇所をぼりぼりといた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
熊手くまでき集めて背負ってこられるものでなく、やはり育てて収穫して調製し加工して、あとから後からと献上してくるものと予定せられ
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
襟元をき合わせるような心持で、その句の描いている寂しい境地、ならびにその作者の抱いている淋しい心持に想い到るのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
妹娘は安楽椅子いすにからだをうずめて、明るい燭台の下で厚い洋書らしいものを、読んでいました。きまり悪げに頭をいている私を見ると
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
父親のベッドにさえ、紀久子はそこに自分の動静をうかがっている者が潜んでいるような気がして、神経をき立てられるのだった。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
自己おの小鬢こびんの後れ毛上げても、ええれったいと罪のなき髪をきむしり、一文もらいに乞食が来ても甲張り声にむご謝絶ことわりなどしけるが
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
見ると、なるほど喬之助は、園絵を前に喧嘩屋のふたりをはばかってニヤニヤ笑いながら、頭をいている。右近は気がついて
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
川鳴りの音と漫々たる洪水の光景は作者の抒情をき立てる。その川と人間の接触を、作者は、作者の生れた土地の歴史に見ようとした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
静臥しているはずの膝が高く折り曲げられていて、両手は宙に浮き、指は何物かをかんとするもののように、無残な曲げ方をしている。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
狐のようにとがった顔をした残忍そのもののような高利貸の玉島たましまの、古鞄を小脇にい込んで、テクテク歩いている姿に変った。
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
そしてそれはこがらしに追われて、砂漠のような、そこでは影の生きている世界の遠くへ、だんだん姿をき消してゆくのであった。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
耕平はそれを鉢の汁の中に投げ込んできまはし、その汁を今度は布の袋にあけました。袋はぴんとはり切ってまっ赤なので
葡萄水 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
彫りも見ごと、啖呵たんかも見事、背いちめんの野晒のざらし彫りに、ぶりぶりと筋肉の波を打たせて、ぐいと大きくあぐらをきました。